■勇者と少年
少年は記憶の欠如を酷く恐れていた。周囲のコスモスの戦士が時間の経過と共に徐々に記憶が回復していくことも焦りに拍車をかける。未だ自分の名前さえ思い出せない。果たして自分が何者か、自分の帰るべき世界は。
「…不安にならないんですか」
少年に手を差し伸べた光の戦士もまた同じく呼び名が無い。彼がどうして冷静でいられるのか不思議だった。淡々と戦場を駆け、戦士たちの先頭に立つ姿に動揺や迷いといった色はなかった。
「君たちと共にいれば何も悩むことはない」
彼の道筋は光が灯されている。そして圧倒的強靭な肉体と精神。
勇者と少年の違いはたくさんあった。
しかし、彼もまた人知れず苦悩に顔を歪める。
「それよりも、
君たちが経験してきた辛い過去を想像も出来ず、分かり合えない自分がひどくもどかしく、惨めに感じてしまう」
悔しそうに唇を噛んだ。
見下ろす地面に少年の戸惑った顔が映る。
「そんな、あなたがいることで皆助けられてるいるのに」
「…そうだろうか」
勇者が下を向くのを少年は初めて見た。
初めて彼の弱さに触れて、寂しさと困惑と一緒に少しだけ安堵した。
彼もまた僕たちと何ら変わりない存在なのだと。
「君は称号に相応しい知識や知恵を持ち、力を持っている。その名を恥じることは何もない」
「ありがとう、ございます…」
「進むべき道を共に見つけよう。自ずと記憶を取り戻す方法も見つかるはずだ
行こう、オニオンナイト」
けれど彼が前へと進むのに自分は彼を呼び止めることは出来ない。
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20110917