■012:英雄と夢想
※一応これの続きです


淡く光る虫の群れが黒いコートにまとわりつく。セフィロスにはそれがライフストリームに近いエネルギーの結晶だとすぐに気付いた。
夢の終わりと呼ばれる場所は何かの施設のようなつくりで、それはセフィロスの星の建物にも似ていたが、その光の存在は完全に異質なものだった。

「なぁ、何か喋ってくれよ」

スタジアムの観客席に座り、ティーダは退屈そうに足をだらりとのばしていた。ティーダは純真から初対面の彼を恐れることはなかった。あの皇帝に対してすら同じカオスの戦士だからと全く疑わなかった男だ。言葉数が少ないセフィロスにも警戒すらしない。カオスの戦士の中には異形の姿をした者も多く、外見上は一番人間らしい彼に安心したのかもしれない。
ティーダはこの世界に喚ばれた戦士にしては、隙が多く、服装も軽装で戦いに慣れているような様子は無かった。
だからセフィロス自身も害がないと判断して放っておいた。

「セフィロスがおしえてくれるまで、ついていくからな」

地底から溢れだす幻光虫を眺めていたセフィロスはティーダへと視線を移した。

「何が知りたい」

自分の記憶がほとんどないティーダが、関心をもったのはセフィロスの過去や元の世界での話だった。
最初は自分のことを思い出す手掛かりになると思っていたが、だんだんと自分の世界とは違う文化や歴史に興味がわいたのである。

「セフィロスが小さい頃の話とかさ」

悪怯れる様子もなく尋ねるティーダを見据え、セフィロスは口を閉ざす。
もちろんティーダは彼の生い立ちを知らないし、想像も出来ないだろう。
反応がないことを不安に感じたのか、眉を寄せてソワソワし始めたティーダを過りセフィロスはゆっくりと口を開いた。

「…物心つく前からある組織に飼われていた」
「組織?」

長年育った記憶の中の神羅の実験施設は壁が白く、ただ広いだけで何もなかった。
側面の窓は強化ガラスで出来ており、そこからは常に誰かが自分を見張り、毎日戦う術だけを学んだ。生きるためにマテリアや剣を身につけ、実験と称して運ばれてくるモンスターを倒し、そして人を殺した。それが異質な光景だと知ったのは、まるで兵器のように戦場に駆り出されるようになってから。

幼い自分に命乞いする母子に手を掛けた時に、セフィロスは自分がただの神羅の道具だと気付いたのだ。

晒された肌に生暖かい風が地面から這い吹き上げる感触に鳥肌が立ち、ティーダは自分の片腕を掴む。
途切れ途切れの記憶は曖昧で不明瞭な部分も多かった。元々自ら蓋をした過去の記憶を何故今更他人に話したのか、セフィロス自身にもわからなかった。

「何故お前が泣く」

ティーダは俯いて地面を見つめていた。今にも零れそうな涙を目尻に溜めて、彼は唇を噛み締めていた。指先はセフィロスのコートの端を掴んで震えている。

「泣いてないッ…!」
「私を哀れむか」
「違う!!」

自嘲すれば、ムキになる。他人にのために流す涙も感情に触れるのも疎ましいと思っていたが、今は新鮮で可笑しくて仕方なかった。
ぐしゃぐしゃに顔を歪めたティーダを見てセフィロスは笑う。



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20110905



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