■012:兵士と獅子


両手に構えたバスターソードを勢いにまかせて振り下ろす、重力により速さが増したそれに目の前のコスモスの戦士は避けることが出来ないと判断すると自分の剣を構えて受け止めた。刃先がぶつかり火花が散る。

自分以上に寡黙な戦士だった
その姿を見た瞬間、強引に襲い掛かったが相手は一言敵かと尋ねてくるだけで、俺がカオスの者だとわかると後は言葉を交わす事はない。
若さの残る容姿には似つかわしくなく、その青年は戦闘に慣れ過ぎていた。敵と定めた者に対しての容赦はない。
額の大きな傷痕は痛々しく、一度見れば忘れない顔だった。

「…まだ、お前に俺は倒せない」

繰り返す闘争の輪廻の中で俺がこの戦士と戦ったのは一度や二度ではない。
倒しては浄化を受け、記憶を失い、この世界の経験も全てリセットされる。
そしてまた出会い、戦う。
負け続けたコスモスの戦士がカオスに勝てるわけがなかった。

「何故手を抜く!」
「!」

目の前で銃声が鳴る。刃先を向けてこちらを睨み付ける青年の怒号に思わず岩場に立ち止まる。

「初めから止めを刺す気もないのに勝負をしかけてくるのは、どういうつもりだ?」

俺は意識的に力を加減していた。最初からコスモスの戦士を倒すつもりなどなかった。寧ろ彼らが少しでも記憶を取り戻し、戦闘の経験を思い出させる為に戦っていた。

有利な場面になっても一向に攻撃を仕掛けてこない自分を不審に思った戦士はついに口を開いた。

「…お前は他のカオスの奴らとは違う」

何を聞かれても答えるつもりはなかった。
目の前の戦士も、この輪廻が終わればまた記憶を無くしてしまう。もう何度もを繰り返してきた。
今日はもう潮時かと、剣を背負う。戦意が喪失した相手とはもう戦えない。
その場を去るため彼に背を向けた。


「待て!」

「…アンタが強くなれば、また会えるさ」

戸惑いも疑問も今はいらない、ただ強くなってほしい。カオスの勝利を覆すためにはまだまだ力が足りない。
名前も知らない戦士が未来で強くなる事をただ願う。
振り返ると何もかも納得のいかない彼は不満そうに唇を噛み締めていた。
戦士は後を追っては来なかった。
俺達は互いに呼びあう名前さえ知らないのだと、ふと気付いた。



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20110730



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テーマ「人外ファンタジー」
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