■012:死神と少女

ある日、それは偶然だったが、少年たちが楽しそうに談笑しながら歩いていくのを少女はガラクタの山の上で見ていた。彼らが敵だとは言う事は再三闘いを繰り返してきたティナにはわかっていた。
しかし、彼らの笑顔を見ると途端に動けなくなってしまったのだ。
幸いにも闘いを強要するケフカは不在で、咎められる事もなかったが、ティナは初めて葛藤し、本人は自覚無く他人を羨ましいと思ったのだ。
操られ抑制された思考、心が閉ざされた彼女に初めて生まれた感情は闘いへの嫌悪や恐怖、そして他人への羨望だった。

『あの人たちの顔を見ると私はずっとそれを眺めていたくなる』

ティナの認識はそれくらい自覚がなかった。そもそも彼女が本来の自分を取り出すにはケフカの魔法が邪魔をしていた。しかし本能的にティナは幸せに恋い焦がれる。
他人の幸せを見ることで己の内が満たされる、それは未知の感覚だった。

「驚いた。キミもそんな顔が出来るんだね」
「クジャ」

音もなく瓦礫の上に降り立ったのは、よく見かけるカオスの戦士。クジャは何かとティナのことを気に掛けていた。魔法で無理やり彼女を戦わせようとするケフカも気に食わないし、とても仲が良いとは言えなかったが、何故かティナには優しかった。
ティナもクジャが会いに来てくれるのはいつも楽しみにしていた。会話はいつもクジャが一方的に喋るばかりだったけれど。

「…そんな顔?」
「キミ今笑ってたんだよ。気付かなかった?」
笑ってた?
ティナはクジャの言葉を反復する。
わからない。
笑うってどんな顔?

「クジャ、笑って?」

ティナの言葉にクジャは苦笑した。

「生憎だけど、僕はタダで笑顔を振りまけるほど心が豊かではないんだ」
「…?」
「…そうだね。例えば君がここから逃げ出して、ケフカの悔しそうな顔が拝めたら、僕は高笑いの一つでも出来るかもね。
でもそれには、君にかかってる魔法を解かないと話にならない」

クジャはティナを解放するために来た。
誰だって自由に生きる権利はある。
そう言ってクジャはあやつりの輪を外した。

「好きなところに行って、好きにすればいい」

小鳥が飛び立つのを手伝うように、足枷を外されたティナはまだ状況がわからないようで目をパチパチと瞬かせた。

「もう戦わなくていいの?」
「そうさ」

ぱあっと目を輝かせるティナに、クジャは言った。それが笑顔だと。



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20120102

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テーマ「人外ファンタジー」
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