■英雄と死神
「何の用だ」
「別に用なんてないよ。気紛れさ」
セフィロスが脚を組んで座る背後でクジャは彼の長い銀髪を愛しそうに撫でる。敵意も悪意もないとわかっているセフィロスは彼の好きなようにさせておいた。クジャの行為を咎める気も追い払う労力も今は惜しい。今は手元にある書籍だけに意識が向いていた。
「そんなに面白いのかい?それ」
本当に暇を持て余しているらしく行動に突拍子もない。
無視しているとクジャが背後から覗き込んでくる。手元の本を奪いもしないが、肩に顎をのせたまま文字を目で追っているようだ
「というかコレって、あの皇帝様のだろ?
…君、これ読めるの?」
本に使われている文字はセフィロスの世界でもクジャの世界で使われているものとも違った。皇帝の私物であろうそれは、魔導書と呼ばれる物で、皇帝のいた世界ではこれを熟読する事で魔法を会得する。…らしい。
因みにセフィロスが読んでいるのはホーリーの本だった。
「文字と記号の規則性から文法を推測すれば、多少な。単語の意味は奴から聞いた」
「あぁ、そうなんだ…」
セフィロスは己の知識欲を満たすためなら遠慮しない、というより手段を選ばない性格という事はクジャも身を持って知っている。
セフィロスに有無を言わさず問い詰められる皇帝を想像してクジャは少し彼に同情した。
「で、どうなんだい?魔法は使えそうなの?」
熱心に本をめくる姿を見るからに、なかなか手応えはあったのだろうか。
魔法主体に戦う皇帝やクジャほどではないがセフィロスの魔力は十分脅威だった。扱える魔法が増えれば、そのまま戦闘に流用するつもりなのだろう。
しかし、好奇心に目を輝かせるクジャを一蹴してセフィロスは苦々しく呟いた。
「…そもそも、あいつの世界と私の世界では魔法を扱うシステムが全く異なる」
「詠唱することで魔力を体内で練り込み放出するのとマテリアに魔力を注ぎ魔法を放つのでは魔力の流れが違いすぎる。話にならん」
「ふうん、それは残念だったね!」
珍しく悔しがるような物言いが可笑しくクジャが声を上げて笑うと、セフィロスにジロリと睨まれ、思わず押し黙る。
「最初から予想はしていた」
膝の上の本をぱたんと閉じると、セフィロスはその場にごろりと横になった。
ギョッとしたクジャを尻目に彼の膝に頭を置いて目蓋を閉じてしまう。
「ちょっと!どういうつもりだい!?」
「腹いせだ」
興が削がれたとばかりに腕にあった本は捨て置かれれた。
上から慌てふためくクジャの文句が降ってきたが、セフィロスは目を閉じたまま開かない。構いたがるくせに、いざこちらから接触すると途端に口煩い男だと思った。
---
20110729