長編 | ナノ


13.刻まれたしるし



幸村様の首を狙って入り込んだ間者を仕留めた後、すぐにどこの手の者なのかを示す手がかりがないか、亡骸をあらためようとした。が、存外簡単にそれは見つかった。
通常、忍の身元を突き止めることは容易くはないはずなのだが、間者が着けていた篭手には、家紋が彫られていたのだ。


「これは、松永か」


ご丁寧に刻まれていたのは、蔦紋。松永家のもの。


「それにしても、こんなにわかりやすいところに紋が刻まれた篭手を忍、ましてや暗殺を仕向けようってときに着けさせるだなんて、ちょっと普通じゃないよね。」


そう。そこなのだ。こんなに簡単に身元がわかるはずがない


「松永久秀――"価値あるもの"を己が手にするためなら、人々を傷つけ略奪することも辞さない、ひたすら自らの欲望に従い生きている……と、あまり良い噂は聞かぬな。」


「でも今回は、旦那の首を狙った。ここ上田城に松永の求めるものがあるのなら、直接その"宝"を盗んでしまった方が手っ取り早いし、危険も少ないんじゃない?あとは、人質をとるとか。それとも、旦那の命が此度の"宝"とか?」


「……もしくは暗殺未遂を期に、松永のもとへ真田の者が礼参りに来るようわざわざ仕向けているか。」



主と上司は一瞬「なるほど」という顔をしたが、まだいまいちピンときていないようだ。
月の光とろうそくの明かりにぼんやりと照らされる二人は、言葉の続きを待つように、私をまっすぐに見ていた。



「つまり、真田の人間のなかに、松永の欲する"宝"、それかその"宝"を持つ者がいる。」



外から風が吹き込み、ろうそくの火が少し揺れた。



「私が、松永のところに行ってくる」









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