長編 | ナノ


本当に一瞬のことだった。


なまえを信じて寝たフリを決め込んでいると、部屋に先ほどの気配が入ってくるのを感じた。もともと音などないに等しかったが、なまえが天井裏から降りてくるのを感じると、一つ呼吸をするころには、二つの知らない気配は消えていたのだ。


そのすぐ後に、柄杓(ひしゃく)で水を撒いたような音と、ドサリ、と何かが崩れおちる音。


スパーンと佐助が障子をあけて部屋に飛び込んでくる。
布団から顔を出すと、予想はついていたものの、普段過ごしている部屋とは全く異なる光景が広がっていた。
月明かりが、赤黒く染まった畳と壁を照らす。


なまえが間者を仕留めたばかりのこの部屋は、初夏だというのに少し寒かった。
空気が冷たい。


「幸村様、お怪我は?」


「全くの無傷だ。なまえ、ありがとう。」


「なんだよこいつら、舐めた真似しやがってさ。いくら気配を消すのが得意だからって、こんなに単純な手で旦那のこと狙って。」


「幸村様、長、これ。」


彼女が差す先は、間者の腕の部分。
そこには篭手がはめられており、灯された明りのもとよく見ると、家紋が彫られていた。




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