長編 | ナノ


12.だんだん凍る



独眼竜一行は結局、あの後幸村様と一度手合せをすると、さっさと帰った。
「また遊びに来るからな〜!!」と言いながら馬で駆けて去って行った。
右目は私ににっこりして、独眼竜とともに去って行った。



年がら年中気合十分な主だが、今日は一段と気合を入れて独眼竜と一戦交えたからか、いつもより少し早く床に入っていった。

今宵は、私が幸村様のお部屋の天井裏に控える番だ。
板の隙間から除くと、あどけない寝顔が見える。そんな顔を見ていると、主も自分とそう変わらぬ歳ごろなんだなあと、なんだか妙に実感してしまう。
あ、幸村様よだれ出てる。



しばらく主の寝顔を観察していると、ほんの一瞬、僅かに空気が揺れるのを感じた。
それは間違いなく、知らない気配。この城の者ではない何者かが、近づいてきている。本当にかすかな気配だったため、我ながら今日の番が自分で良かったと思う。私か長以外だと、なかなか感じることのできる者はいないかもしれない。ツン太はどうだろう。


周囲に気を張りつつ、ちらりと幸村様の様子をうかがうと、目元まで布団をかぶっているのが見えた。


……あれは、起きている。
幸村様も気配を感じ、咄嗟に目を覚ましたのだろう。



気配は最低限しか感じられないといはいえ、確かにこちらに向かってきている。
今頃、長もどこかで警戒しているはず。



主の寝首を掻きに来たのだろうか。


幸村様は依然、寝たフリをしている。
ここで飛び起きて自ら応戦するよりも、ギリギリまで引き付けてから私が仕留めたほうが、確実に、相手の正体を掴むことができると判断したのだろう。
私の腕を信じてくださっているからこそ、自ら動こうとはしないのだ。


やはり、私の主はこういうところでは本当に冷静で、そのことを無性に誇らしく感じた。
思わずにやけてしまう。



ひとり天井裏でにやにやしていると、どこからともなく部屋に二人の忍が現れた。
真っ先に幸村様へと近づく二つの影。


……が、そうはさせない。


私は部屋へと降りた。




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