長編 | ナノ
10.その名は、
戦から戻ると、城を護ってくれていた者たちが私たちを出迎え、ケガ人をせっせと連れて行った。
圧勝とはいえ、戦にケガは付きもの。
名誉の傷を負った兵たちが一斉に手当てを受け、皆が包帯を巻いている光景は戦の直後ならではだ。
幸村様は真っ先にお館様の元へ向かうというので、再びお供することになった。
今回は長は城に残って留守番だ。別行動で情報収集していた忍がそろそろ戻るから、その報告を聞くためとか言っていた。
とか言いつつ、戦から戻って早々お館様と幸村様がぶっ壊した館を修理することになるのが嫌なんだろう。
躑躅ヶ崎館に着くと、お館様のもとへ通される。
私も幸村様と一緒にお会いすることを許された。
「幸村!此度の戦、見事であったぞ!!」
「有難き幸せにございます!!」
「これは、お主に大将の座を譲る日も遠くはないかもしれぬな……。」
「精進いたしまするううううううう!!!」
「なまえよ!お主の活躍も聞き及んでおる!!今後も幸村の大きな力となってくれること、期待しておるぞ。」
「もったいなきお言葉。」
「顔を上げい、なまえ。」
跪いて首を垂れていた私は、お館様に促され顔を上げた。
その眼に飛び込んできたのは、普段の“武田の将”からは考えられないような、優しい笑み。
自分に祖父でもいたら、こんな笑顔を向けてくれていたのかなと考えてしまう程に、お館様の表情は慈愛に満ちていた。
「これからもよろしく頼むぞ。幸村と佐助を支えてやってくれ。」
そう言うと、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
視線を感じて幸村様の方をみると、なんだかすごくうらやましそうな顔をしていた。
撫でてもらいたかったのか……。
そんな幸村様の顔をみて、お館様からの喝。
「ゆきむるあぁ!!何を腑抜けた顔をしておる!!!そんな顔をしているようでは、まだまだ儂の代わりは務まらぬぞおおおおおおお!!!!!」
怒号とともに殴り飛ばされる幸村様。
襖をぶちぬいて遥か彼方へ。
これもしかして、長いないから私が修理するのか?
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