長編 | ナノ
勝負が終わり、壁にめりこんでいたツン太がこちらにやってきた。
「あなた、ホントめちゃくちゃですね。」
そう言う彼の表情は、今までの感情が読み取れないものではなく、どこか柔らかくなっていた。
「いやほんと、実際私の戦い方はめちゃくちゃだ。力任せだ。」
「でも、めちゃくちゃでも俺が敵わないことばかりだった。これで少し、自分にも素直になれましたよ。意地張るのはもうやめておきます。」
少し微笑んで、彼は道場を出て行った。
すると、幸村様と長がこちらにやってくる。
「なまえ!見事であった!!これまで佐助に次ぐ実力と言われていた『へぇー!左様か!』…を、一撃であれ程飛ばすとは、さすがだな!」
あれ、ツン太の名前のとこ、周りの声にかき消されて聞こえなかった。
「なまえの強さはわかったけどさ……道場、壊さないって言ってたよね…?」
「……あー、それはあれだ。幸村様じゃないんだから壊さないって言ったけど、壊したっていうことは、私は幸村様だったということだ。」
「なにそれ意味わかんないし。」
「破廉恥……!」
「なにが?」
幸村様がひとりで赤くなっていると、長がなにやら小声で話しかけてきた。
「これで忍隊での地位も安定ーって?」
「なんだ、気付いてたのか。」
「当たり前だろー俺様を誰だと思ってんの。第一、あんなにお前に対して羨望の眼差し通り越して、殺気みたいなの飛ばされてちゃ嫌でも気付くってのー。」
「そうか。羨望の眼差しね……」
「そ。『はははは!それは真か?』…のやつ、真面目なんだよね。それで、ものすごい努力家。そこになまえがいきなりポーンと自分の立ち位置に入って来ちまったから、焦ってただけなんだよ。ま、そんな感じだから悪く思わないでやって。」
また名前聞こえなかったぞ。
「悪くなんて思ってないよ。真田の忍として、幸村様や忍隊の役に立ちたいって一心なんだろう。ツン太に限らずここの者はみんなそんな感じだな。」
「へへー。それも旦那の影響かなーって。……ツン太って?」
「ツン太はツン太だ。」
← →
back
top