(――一体、なんだっていうんだ?)


朝、何となくダルい体を引きずりながら起きると、何故か神城が覗き込んでいて。

襖を開けると、廊下に狼がいて。

更に、隣の部屋で静香と桔梗が待機しているという、鈴鳴にとって訳の分からない状況だった。

――何がどうした、と問いかけても、にやにやする(神城、狼)だけで誰も答えようとはしない。



「何かあったのか、と言われても……」

ね?、と桔梗と静香が顔を見合わせ、桔梗は苦笑する。一方、静香は、あぐらをかいた太股の上で片肘をついた。


「なーんにも、覚えてないの?」

「――は?」

「……あー、はいはい、わかりましたー」

静香はため息をつき、廊下側に目をやった。


「――それで? 咲ちゃんには会ったの?」

「……。ちょっと待て。なんで、咲が出てく、」

「会ったの?」

有無を言わせない口調に呑まれながら、鈴鳴は言った。昨夜の記憶がない鈴鳴は何故、ため息をつかれるのか、全くわからないのだ。


「いや…、今日は会ってないが…」

「――昨晩、色々あったんですよ」と妙に"色々"に力を込め、桔梗は言った。

「危うく、咲さんが大変なことになるところでした」

「……何?」

一気に、鈴鳴の目が険しくなった。静香が呆れた目を桔梗に向けたが、桔梗は澄ましている。


「それがですね、酔っ払いに絡まれまして…」

「酔っ払い?」

「ええ」

――ますます険しくなる、鈴鳴の顔。

絡んだというより、単に抱きついただけなのだが。……いや、それ以前に。


――その酔っ払い、あんただよ、と思わず言いたくなるのを、静香はぐっと堪える。桔梗が意味ありげに目配せしたからだ。

「僕達がたまたま伊勢屋さんを通りかかったから、良いものを…」

「――で、どこのどいつなんだ?」

「……」

桔梗はにっこりと、満面の笑みで問いかけに応じた。


「僕の目の前にいます」

「……は?」

「ですから、目の前です」


――この時の鈴鳴の反応は、見物だった。

まずは、後ろを振り向き、誰もいないことを確認。目を前に戻し、顔をこわばらせたまま、石像のように固まってしまった。


「……ちょっと、桔梗。苛め過ぎよ」とそれを見かねた静香が桔梗を睨む。桔梗は小さく舌を出した。

「フフ…。すいません、つい」

「ついって…、あんたね…」


不意に、――ガタン、と音がした。

桔梗と静香が驚いて、音のした方を向くと、鈴鳴がよろめきながら部屋を出ていくところだった。


「「……」」


「……。おやおや」

「……おやおや、じゃないわよ! 馬鹿!」




◎桔梗さんがドS(笑)狼、神城は相変わらずです。「一体、何をしたんだ…?」と自問自答中の鈴鳴。

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