疾風隊四番隊隊長は、稀にみる堅物である。
「あ、おかえりなさ、」
「――っと、ごめんよー」
――ここは、伊勢屋。
半ば無理矢理、かつ、強引ではあったが、疾風隊隊士らと食事会に出かけた鈴鳴を待っていた咲は、年若の疾風隊隊士に支えられるようにして帰ってきた鈴鳴に目を丸くした。
「――よいしょ、と」
「ど、どうしたんですか!?」
玄関先で崩れるようにして倒れこんでいる鈴鳴はぴくりとも動かない。焦る咲をよそに、隊士は呑気に肩を鳴らしている。
「あーっ! 重かった!」
「え、あ、あの……」
「――うん? あ、大丈夫大丈夫!」
隊士は手を振り、立ち上がった。何故か、少々ふらついている。
「酔ってるだけだから」
「よ、酔ってる、だけ…?」
「うん」
よくよく見ると、へらへら笑う隊士の顔もうっすら上気しているし、若干目が据わっている。……そして何より、酒くさいのだ。
「……鈴鳴さん、飲めないんじゃ、」
「えー? でも、ほんの一口だけだよー? しかも、舐めた程度だし」
「……」
――余程、酒が飲めないと見た。
咲はすっかりぐったりとして、死んだようになっている鈴鳴の肩を叩いた。
「ここじゃ、風邪引いちゃいますよ」
「……」
「部屋に行きましょう?」
「……」
――反応なし。困った挙句に、咲はずるずる下へと下がっていく鈴鳴の腕を掴んで引っ張った。が、咲の力ではどうにも上手くいかない。
(……どうしよう…)
酔っ払いの隊士はとてもじゃないが、使い物にならないし、かといって伊勢屋の吉や三郎に迷惑はかけたくない。
「っ、起きて下さ、」
「…………、?」
もぞもぞと頭が微かに動き、地面に伏していた顔が上げられた。ぼうっとした鈴鳴の目に、咲が映る。
咲はほっと息をついた。
「良かった…。立てま、」
「……」
鈴鳴の目が瞬き、そして、――咲は世にも珍しい物を見た。
鈴鳴が笑ったのだ。
ほわりとした人なつっこい笑みで。
「す、鈴鳴さん…?」
「……」
その笑顔のまま、咲の背中に手を回し、ぎゅっと抱きついてくる。咲のお腹の辺りにある、鈴鳴の後ろ髪。
いつの間にか、寝たらしい、酔っ払った隊士の鼾がやけに遠くに感じられる。
「えっ、えっ、ちょ、」
「……、」
「「――咲ちゃん!」」
戸にかかった心張り棒を無理に退かす音が響き、数人が伊勢屋に飛び込んできた。
「お前っ! 無事か!?」
「無事っていうか、なんていうかな…」
「大丈夫ですか?」
「ったく、大袈裟な…」
◎鈴鳴は下戸です。酔っ払うと抱きつく癖があります。基本、人畜無害です。
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