突然現れた、闇を纏った男か女か定かではない人影に神城は剣呑に目を細めた。
視線だけをぐっと唇を噛み締めている狼の方にちらりと寄越す。


「――おい、狼。こいつ、知り合いなのかよ?」

「賀竜、……忍だ。政府に雇われてる」

「……へえ。政府が"これ"を狙ってるってマジだったってことか」


政府が火焔隊に妖刀、夜叉車を探させている。そのことは、玄の話から既に知ってはいた。が、しかし、何の為に政府が手に入れようとしているのか未だにわからない。




……


魂を喰らうという刀を、一体、何の為に欲しがるのか。




「えー…、賀竜、だっけ?」と神城は顎に手をやり、のんびりと切り出した。僅かに見える賀竜の眉がぴくりと反応する。


「確かに、俺逹はついさっき、政府や操り師が欲しがってる妖刀とやらを見つけた」

「……それを渡せと言っている」


賀竜の無感情な目が狼の手の中にある刀へと向いた。それに構わず、神城は世間話でもするかのように呑気に続けた。



「……いやー、それにしてもさァ、曰く付きの妖刀っつーから、どんなおどろおどろしいもんが出てくるかと思ったら、拍子抜けするくらい普通の、」

「――何が言いたい?」


言い終える前に、賀竜の冷ややかな声が遮った。神城は口を閉じ、表情を引き締める。



「――…なぁ、賀竜。一つ教えてくんねえかな?」




……


なんで、政府はわざわざお前らを使ってまでこの刀が欲しいんだ?




「……操り師も、政府も、この刀なんか手に入れて何をするつもりなんだよ?」


ただただ、嫌な予感がする。暗くよどんだ何かの蠢く影が見える。哀しく、どうしようもない怒りと虚しさだけをこめたあの刀が人を幸せにするはずがない。



「……ふ、」


くだらないとでも言いたげに、賀竜は鼻で笑った。


「俺様は、心を持たぬ影。元来、忍とはそういうものだ。……影が主の目的など知ったところで、全く意味をなさん」

「賀竜、お前…、政府が何をしようとしているのか、知っているのか?」


狼が静かに口を開いた。賀竜の目が興味深げに瞬く。



「……ほう。政府に逆らうか。政府の犬ともあろう者が」

「……」

「臆病者の貴様が守る以外の行動をとろうとはな…。血迷ったか、それとも、」


賀竜は途中で言葉を切り、目を閉じた。



「――まあ、いい…」




……


俺様には関係のないことだ。




伏せがちにしていた視線を戻して、長い黒衣の間からすらりとした無駄な筋肉が一切ついていない両腕を出した。琴の弦を弾いたかのような微かな音がする。続いて、耳障りな金属音が空気を震わせる。


賀竜の纏う空気が一変した。


「お前、何を、」

「……貴様らに、俺様の舞を見せてやろうと思ってな」

「!」


狼の問いかけに、賀竜の両手首と腕とに絡み付くように巻かれた、幾重にもなった透明な糸を見せた。長く伸びた十の指の間にある、銀色に鋭く光る小さな複数の刃。


「お前…、」

「……"あの方"の傷害となる者には、死あるのみだ」


だらりと力なく垂れた、髪の毛のような細い糸が徐々に張られていく。それに合わせて、キリキリと弦が力強く引っ張られる音、弦を爪でひっかくような音が激しくなる。



「……朱雀、青龍」


とっさに刀を抜き、身構える狼と神城を前に、賀竜の唇が非情な言葉をつむいだ。



「――殺れ」

「、っ!」


次の瞬間、神城と狼の上に無数の刃が降り注いだ。








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