「……綾都のことは、狼に任せるとして…」暫し黙っていた玄が、おもむろに口を開いた。


「これからどうするか、相談しないとね」


静香のことも、小娘のことも、……かの妖刀のことも含めて。



神城が軽く片手を上げ、振った。


「てか、何のあてなく探すのも、そろそろ限界があるぜ? 思いつくとこ、殆ど探し尽くしちまったみたいだしさ」



それに、栄吉が神妙な顔で頷いた。


「今も隊士達に探させてますが、報告がないところを見ると、どうやら不発みたいッスね…」

「これだけ捜索範囲を広げ、くまなく探して何の成果もないってのも妙な話です」杢太郎が栄吉に続いて、眉間に皺を寄せた。



ここ数日、疾風隊隊士は勿論のこと、応援に駆け付けた火焔隊隊士らを総動員し行っている捜索活動は少しの進展もなく、全て徒労に終わっていた。静香を連れ去った者の逃走した道のりや、少しの手掛りさえ見付からぬ有り様だ。


「静香、それに小娘を連れ去ったのは恐らく、操り師。とすると、そう簡単に見つかるような真似はしないだろうね」玄は肩をすくめ、首を振った。



「……ああ。それに、――奴らには綾都の幻術がある」



狼はおもむろに口を開いた。ただでさえ、幻術は厄介だと先程聞かされたばかりで、皆の顔がこわばった。


「綾都の幻術は強力だ。俺逹に見つからないようにするのは、お手の物だろう」

「……操り師の本拠地を見つける為には、綾都の幻術を破る必要がある…。そういうことですか?」桔梗が冷静に問いかける。
内心の焦りや不安を必死に抑え込んでいるようだ。


「……その通りだ」と狼は静かに頷いた。




やれやれとため息をついた玄が肘をつき、呆れたように言った。


「あのね…、そう簡単に破れないから、強力なんじゃないか。それ、ちゃんと分かってて言ってるの?」

「――勿論だ」狼はあっさり肯定すると、膝を手で軽く打った。玄が面食らったように、目を瞬かせる。



「? ……どういう意味?」

「操り師の本拠地に入る手段を考えるより先に、するべきことがあるだろ?」

「はあ?」


狼の問いかけに、……ああ、成程ね、と戸惑っていた玄は呟いた。
そして、にたり、と意地悪そうに笑う。



「……もしも失敗したら、上からお咎めが来るかもしれないね。あはは、クビになっちゃうかもよ? ……いいの?」

「何を今更……」狼は玄のあからさまな冗談に苦笑した。


現在、疾風隊や、隣町で厄介者とされている火焔隊が、これだけ派手に動き回っているのだから、すでに上には知られているに決まっている。
今更、どう動いたところで小言の一つや二つ、三つや四つ…、それどころか、処分されること、間違いなしだ。


……勿論、クビも考えられる。



「――元々、厄介者なのはお互い様だ」

「"特に、僕は"でしょ?」自分を指差し、玄はゆかいそうに目を細めた。



「………っ…で、」くぐもった低く、唸るような声が、少し息を乱しながら割り込んだ。


ようやく、治療を終えた鈴鳴が身を起こし、裾を乱暴に捲り、片膝をついた状態で問いかけた。



「……そ、の…、するべ、きこと……って何な、んだ?」

「……」


刀を杖代わりにすがっている、痛々しい鈴鳴の姿を一瞥し、狼は静かに言った。




「刀を、――かの妖刀、夜叉車を操り師より先に手に入れることだ」




狼は敷布団に横になっている喜一を見下ろした。真剣な狼と皆を見上げ、喜一は唇を噛み締めて重々しく頷いた。


「……それしか、方法がないのでしょうね…」

「あぁ…。……悪いな、喜一」

「……お教えしましょう。――…ただし、狼隊長」喜一は身体を起こし、狼の肩を掴んだ。




……


約束して下さい。




「どんなことがあろうと…、あの刀の力を欲することだけはしないと」




……


貴方はずっと、苦しんでこられた。そして、その身を犠牲にすることに馴れていらっしゃる。




あの刀は、貴方の強さとも弱さともいうべき思いにつけこんでくるでしょう。……甘く囁くでしょう。




……


何があっても、まやかしに呑まれてはなりません、絶対に。




――不意に、どきり、とした。狼は少し後ろに身を引く。


「……苦しむのは貴方です。狼隊長」

「、……分かった」


いつにもまして真剣な喜一の言葉によって走る微かな動揺を隠し、狼はもう一度尋ねた。





「……喜一。妖刀、夜叉車の隠し場所を教えてくれ」









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