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学校帰り、私はゾンビに遭遇した。
いつも通る道、いわゆる通い慣れた通学路。突然脇道から何か出てきたと思ったら、それがゾンビだった。
いやそんなバカな、と否定しようにも、それはどう見てもよくテレビや映画で見るのと同じ、ゾンビと言われてきっとみんながイメージするだろうそのままの、まさにゾンビだったのだ。
私は絶句した。こういう時って案外悲鳴とか出ないもんなんだな。
とりあえずゾンビと衝突しなくて良かった、と思う。あんなものとぶつかりでもしたらきっと着ているものがとんでもないことになってしまうだろう。
ゾンビと激突はまぬがれたものの、数歩後ずさったところで私はそこから動けずにいた。悲鳴を上げることもなかったけれども、逆に助けを求めることも逃げ出すこともできずにいる状態だ。ゾンビはすでにこちらに狙いを定めているようで、目をそらせば即飛びかかってくるような気がしたし、何より、その時私の頭の中にあったのは『ここから逃げなければ』ではなく『こいつを倒さなければ』だったのだ。
その日はちょうど天気が微妙で、私は傘を持っていた。
私はゾンビと睨み合ったまま、そっと鞄を地面に下ろした。それから傘を構えるように持ち直す。イメージは剣道だ。やったことないけど。
そして私は無言で傘を振り上げ、脳内で雄たけびを上げながら(実際に叫ぶのには少し抵抗があった)傘を思いっきりゾンビの頭めがけて振り下ろした。
ところで、このゾンビはいったい何をするつもりでここに現れたのだろう。
ずしゃっ、という音がしたというか手ごたえがあった。
ゾンビは消えた。
振り下ろした傘の軌道に沿って真っ二つになった後、ばっ、と散り散りになって消えていったのだった。
後には何も残っていなかった。
傘を見ても特に汚れてはいないようだ。もしかしたら使い物にならなくなるかもしれないと思っていたからほっとした。
じゃあ、これで無事ゾンビは倒せたということでいいのだろうか。
まさか二体目三体目と次々にぞろぞろ出てきたりはしないよな、と私は辺りを見渡してみる。すると、そこで初めて、道路の反対側(といっても狭い路地なのですぐそこだ)に、女の子が一人いるのに気が付いた。
目が合った。
知らない子だ。私と同じ制服を着ているから同じ学校で、襟元のリボンが私のと同じ色だから同じ学年のはずなのに。
彼女は呆然というか唖然というかどうリアクションしたらいいのか分からないみたいな顔でこちらを見ていた。ていうかこれはきっと。
「ひょっとして、今の、見てた?」
私が尋ねると、彼女はうなずいた。
「うん。初めて見た。ゾンビも、ゾンビ倒してる人も」
私はため息をついた。まいったな、と苦笑いして肩をすくめたいような気分で。
「私だって初めてだわ。ゾンビ見たのも、ゾンビ倒したのも」
どうしようかな、と少し考える。ここはやっぱり口止めとかするところなのかな。まあたとえ彼女が今のこの出来事を言いふらしたところで、きっと誰も信じないだろうとは思うけれど。
「ねえ!」
すると、今度は彼女の方が私に声をかけてきた。
「え、何?」
「あのさ、この後時間ある? よかったら、一緒にスイーツでも食べに行かない?」
「えっ? ああ、別にいいけど……」
まるでナンパみたいだと思った。
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