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「あのう」
それは、ある日の放課後のことだった。
「天野翔(あまのかける)くん」
「え、あ、はい」
帰ろうと教室を出たところで、僕は突然フルネームで呼ばれて、見れば、そこにいたのは一人の女子生徒。確か、
「あ、あたし、渡辺灯(わたなべあかり)です。隣のクラスの」
「ああ」
そうだ。隣のクラスの子だ。名前を聞いたのは初めてだったけど。
「あの」
僕の行く手を阻むように正面に立ちまっすぐ僕を見つめてくる彼女は、心なしか緊張しているように見えた。なんだろう。
「突然なんですが、よかったら、一緒に帰りませんか?」
「え?」
なんで?
「えーと」
すると彼女はますます緊張した様子で、
「実はその、あたし、前から、あなたと仲良くなりたいなって、思ってて……」
「えっ?」
あれ? これってひょっとして、告白ですか?
それから、僕はほぼ毎日彼女と放課後待ち合わせて一緒に帰るようになった。聞けば、彼女は僕と帰る方向も同じで交通手段も同じバスだった。だから、学校から最寄りのバス停まで一緒に歩いて、同じバスに乗って、先に降りる僕を彼女がバスから見送る、ということになった(ちなみに朝も同じバスになるんだけれども朝は人が多くてなかなか近づけなかった)。
帰り道、僕たちはいろいろな話をした。主に喋るのは彼女の方で僕はどちらかといえば聞き役だったけれど、彼女の話は面白くて、一緒に帰る時間はとても楽しかった。僕らはすぐにメールとかもするようになったし、お互い下の名前で呼ぶようにもなった。
ただ、付き合っているのかといわれれば、それは微妙な……、いや、これはもう、付き合ってるでいいんじゃないかな、うん。
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