幸せな座椅子


「こうやってアカネちゃんとイチャイチャできる僕は幸せだなあ」
「イチャイチャって」
 私はぽりぽりとお菓子を食べながらテレビを見ていた。夕方の、のんきなローカル情報番組だ。どうでもいいけどなんだかほっとする。ところで確かに私はタツキの膝の上に座っていて、タツキは私に抱き着くように手を回してるけれど、イチャイチャしてるというよりはなんだかシートベルト付きの座椅子に座ってるみたいだ。
「だって、世の中には大好きな人に触りたくても触れないみたいな人だってたくさんいるのに」
 タツキは私をぎゅーっとし始めた。別に今のところは苦しくないからいいけど。
「だから、もっとずっとこうしていられるように、大事にしなくちゃねー」
「……タツキ」
「ん?」
「タツキはちょっとドラマの見すぎ」
「え?」
「私は、まだまだ世の中結構幸せにイチャイチャしている人たちの方が多いなんじゃないかと思うんだけど。少なくとも、私はそう思いたいんだけど。それじゃいけないのかな」
 タツキは一瞬ぽかんとしたようだった。
「もー。アカネちゃんのそういうところが可愛いなあ」
 けれどもまたすぐさらにぎゅうっと腕に力を込めながらたぶんおでこで私の頭をぐりぐりし始めた。
「ちょっとタツキ、痛い」
 さすがに私も文句を言って、お菓子の箱をタツキに向ける。
「もう、これあげるからおとなしくしてなさい」
「今ちょっと手が離せないからアカネちゃん食べさせてー。あーん」
「まったく……、しょうがないなあ」
 仕方がないので、ほら、と私はタツキの口にお菓子を突っ込んであげた。



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