勇者と魔王


「アカネちゃんは、RPGだったら勇者だね」
「え?」
 顔をあげると、タツキが目を細めて私を見ていた。
「なんで」
「強くてカッコいいから」
 居間でタツキと向かい合わせに座って私は宿題をしていた。いきなり何を言い出すんだと思ったけれど、そういえばさっきテレビでゲームか何かのCMやってたなあ。
「じゃあ、タツキは?」
「うーん。僕はあんまりRPGには詳しくないから分かんないなあ」
「何それ」
 まあ私もゲームはあまりやらない方だから人のことは言えないけど。
「でも、そうだなあ……、魔王かな」
「え? 魔王?」
 それでも少しして返ってきたタツキの答えは意外すぎた。
「それ敵じゃん」
 しかもラスボスじゃん。そこは普通せめて仲間とかじゃないの?
「うん。でもね、勇者アカネちゃんがあまりにも強くて美しくて眩しいから、魔王の僕も一目でメロメロになっちゃってひれ伏しちゃうの」
「……私そんなすごいもんじゃないよ」
 私はなんだかちょっと困ってしまう。タツキは相変わらず目を細めて私を見ている。その表情はなんだか眠そうだ。
「だってアカネちゃん後光がさしてるー」
「いやそれは、単にこっちから光が入ってるからで」
 私は窓を背にして座っていて、窓からはちょうど西日が差し込んできていた。だから後光じゃなくてなんだっけ、逆光? でも振り向くと西日は思ったよりも眩しくて、私はちょっとカーテンを閉めてあげようと立ち上がった。
「あのねえアカネちゃん、アカネちゃんは本当に……」
「え? なに?」
 カーテンを閉めて振り向くと、何かモゴモゴ言っていたはずのタツキは、テーブルに突っ伏して寝てしまっていた。いや寝てんのかい、と私は一人突っ込んでひとつため息をつくと、また宿題の続きに取り掛かった。



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