王様と踊り子


「アカネちゃんが勇者でタツキが魔王?」
 眉間にシワを寄せた険しい顔でイズミ君が言った。
「そうなの。おかしな話でしょ? 想像の斜め上をいく発想だよね」
 何の話かというと、この間タツキが言ったのだ。RPGだったら私が勇者でタツキは魔王だって。
「でも、なんか分かるような気もする」
「え?」
「イズミ様は、勇者とか魔王というより王様って感じですね」
 イズミ君が何かを呟いて私が聞き返そうとしたところで、シズカさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。ちなみにここはイズミ君(と、居候のシズカさん)の家だ。たまたま通りかかかったところを、よかったらちょっとお茶していかない? と呼び止められたのだ。
「……シズカ」
 イズミ君の眉間のシワがますます深くなった。
「イズミ様はやめてっていつも言ってるだろ。それから、王様ってRPGじゃそんなに重要なポジションでもないと思うんだけど。むしろモブみたいなもんじゃないか」
「?」
 シズカさんは、よく分からない、みたいに目を丸くして小首をかしげた。イズミ君はちょっとため息をついて、
「だから、例えば戦士とか魔法使いとか……、そんなんで例えたら何っぽいかな、て話」
「でしたら、イズミさんは魔法使いですね! いつも魔法のようにおいしいごはんを出してくださるので」
 イズミ君は今度は深々とため息をついた。
「僕は別に魔法でごはんを出してるわけじゃないんだけどね……。あと、呼び方はイズミ君の方がいい」
「じゃあ、シズカさんは?」
 そんな二人のやりとりを微笑ましく見ながら一通りお茶とお菓子をいただいたところで私は聞いてみた。ここのお茶やお菓子はいついただいてもおいしい。きっとお菓子はもちろんお茶っ葉もお水も特別な高級品なんだろう。いやお水はうちと同じ水道水かもしれないけど。
「え? 私ですか?」
「シズカこそ、なんかリアルにRPGの主人公みたいだと思うけど。行き倒れてた時なんかまさにLEVEL:0って感じだったし」
「なるほど、そしてそこからめきめきレベルアップして成り上がっていくんですね! 素晴らしいです! そんな生き方、憧れます!」
 シズカさんはそうテンション高く言ってぐっと拳を握った。いや成り上がるはちょっと違うんじゃないかなと思ったけれども、よく考えてみれば確かにRPGってそんな感じかもしれない。
「シズカがレベルアップしてるかどうかは知らないけど」
 シズカさんのテンションの高さとは対照的にイズミ君は冷静に一度突っ込んで、
「でも僕は、シズカには踊り子なんか似合うと思うな」
「踊り子?」
 また意外なチョイスに今度は私も目を丸くした。
「いや、私、ダンスはちょっと……」
 さすがのシズカさんもちょっと困り顔だ。
「え? またなんで」
「だって」
 するとイズミ君は真顔で、
「衣装がエロいから。シズカにああいうの着てもらいたい」
 え、何それ。
「まあ、イズミ君ったら」
 当のシズカさん本人はまんざらでもない様子だけど。
「…………」
 やれやれ。私は一つため息をついた。イズミ君って時々普通にすごいこと言うよなあ。
 そして、二人はほんとに仲良しだなあ、なんて思って、私もちょっとタツキでも呼ぼうかな、とか考えてしまうのだった。



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