青い月夜


 ふと窓の外に視線をやって、蒼嵐(そうらん)は顔をほころばせた。
「ああ、いい月夜ですねえ」
 紺色の夜空に、青く大きく輝く月。窓から見える景色も青く染められている。村の外、果てしなく続く白い砂漠も、きっと青く染められていることだろう。
「我々は、かつて」
 思い出すのは、古くから伝わる物語。
「あの青い月に住んでいたのだと、いいますね」
 窓辺に立ち、ぼんやりと空を見上げたまま、蒼嵐は誰にともなく話しかける。いや、彼の後方で椅子に腰掛けうつらうつらしている少年が、思い出したように相槌をうっていた。
 外は風もなく静かだった。きっと砂漠も穏やかだ。
「けれども、いったいなぜ、こんなところに移り住んだのでしょうね」
 砂漠はけして暮らしやすい場所ではなかった。青い月には楽園があるという。それならばなおさら、どうしてわざわざそれを捨ててまで。
「我々は、果たして本当に、ここを選んで降りてきたのでしょうか」
 もちろん、違う言い伝えも色々あった。だがそのどれもこれも、結局のところは単なるおとぎ話だ。
「まあ、本当のところなんてどうでもいいんですけどね」
 付け足して、蒼嵐は窓に背を向けた。また椅子でうつらうつらしている相棒の輝沙(きさ)に微笑んでその肩を叩く。
「ほら輝沙、寝るならちゃんと寝室に行きなさい」
 結局は、遠いおとぎ話などよりも、こうしたなんでもない日常なのだ。



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