二章(2/2)
「よろしい。では、君の警戒も解けたところで、本題に入ろう」
 フォルスの様子に男は満足げにうなずくと話し始めた。
「先ほども少し言ったとおり、私は君に頼みたいことがあるのだよ。それはとある少年の護衛だ」
「護衛?」
 フォルスは眉をひそめた。剣士だったころならともかく、今の自分は神殿の下っ端に過ぎないのに。
「そういうことなら俺の昔の仲間を紹介してやろうか。これでもまだ少しなら顔がきくんだ」
 剣士をやめて封魔師になると言った自分に、当時の仲間は驚き、笑い、心配した。今ではもう自分とは関わりたがらない奴が大半だが、それでもまだ幾人かは仲間でいてくれようとしている。
 だが男はかぶりを振った。
「いや、これは恐らく君にしか頼めない話なのだ。魔物に関する知識と、さまざまな危険から彼を守れるだけの技術を兼ね備えた君にね。そもそも、少年といってもただの少年ではない。彼は『剣を持たない封魔師』なのだよ」
 そして男が思わせぶりに告げた言葉にフォルスは目を見開いた。
「『剣を持たない封魔師』だって?」
「そうだ。私は先ほど彼に会い、力を授けてきたところだ。彼にはこれから、本当に魔物を滅ぼしてもらうために旅に出てもらわなければならない。だが、彼には力はあっても知識も技術もない――つまり、力しかなくてね。そこで、彼を守りながら彼に戦い方も教えられる、そういう存在が必要となるのだ」
「ちょっとまってくれ」
 フォルスは混乱した。こいつは何を言っているんだ。そもそも、
「『剣を持たない封魔師』?そんなもの、単なる噂話じゃないのか」
 剣を持たない封魔師。神から力を授けられ、剣に頼らずに魔物を倒せる存在。だがそれは、いるかもしれないがいないかもしれないと冗談半分に面白おかしくささやかれる噂話でしかないはずだ。
「君は私の話を聞いていたのかね。私を何だと思っているんだ」
 ――はるかな昔、神は魔物の存在を憂い、人々に魔物を倒す剣をお与えになったという。だがそれでも一向に魔物はいなくならない。それがご不満だったというのか、神は今度は直接人に力を授けるようになってしまわれたとでもいうのか。
「……俺はあんたが神様だってのも怪しいもんだと思っているんだが」
「やれやれ、正直で結構」
 男は呆れた様子で溜め息をついた。
「分かった。どうしても信じられないというのなら、こういうのはどうだね?名目は調査でも何でもいい、とにかくまず彼に会ってみるというのは」
「会う?」
「そうだ、会ってその目で確かめてみればいい。幸い彼が住むのはここからほど近く――ちょうどこの神殿の管轄にもあたる地域だ。実際に会って確かめたうえで、彼を神殿に突き出すもよし、そのまま彼と行動を共にするもよし、君の好きにすればいい」
「なるほど」
 確かにそれはその通りだと思った。『剣を持たない封魔師』なんてあり得ないだろうとは思うが、もしそのようなものを自称する奴がいるとしたら、それは調査した方がいいのかもしれない。
「分かってくれたなら、結構。それでは、早速行ってくれたまえ」
「早速って……今からか」
 フォルスは一度扉を振り返り、再び玉座を見上げた。しかしそこにはすでに男の姿はなくなっていた。だが不思議なことに、これからどこへ向かえば良いのは、はっきりと分かった。
「神様、ね」
 溜め息をついてフォルスはホウキを壁に立て掛けた。掃除の続きをする気など、もうとっくになくなっていた。



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