胡散臭い話
私は私を見下ろしていた。私は、この研究所の隠された小部屋でずっと眠らされ続けていて、けれども私は、こうやってこの研究所内を漂い続けている。
私の意志ではない。当然だ。私は騙されてこんな目に合わされている。不本意な話だったし、何より不自然だ。こんな状態は早く終わらせなければならない。
「本当に?」
背後から声がした。振り向くとあいつがいた。
「本当に、今のこの状態を終わりにしたいとお考えですか?」
胡散臭い見た目に胡散臭い話し方。そうだ、こいつは初めて会った時から胡散臭かった。こいつのせいでみんな人生を狂わされたのだ。私も、佐倉も、桐島くんも、ほかの人たちも。
「わたしには、あなたはむしろこうなる以前よりも自由なように見えますが、違うのですか?」
自由? こいつは何を言っているのだろう。今のこの状態のいったいどこに自由があるというのか。
「もっといいことを教えてあげましょうか」
私はあいつに掴みかかりたかった。その胸倉を掴み上げて、元に戻せと叫びたかった。けれどもいつの間にか、辺りはただぼうっと薄暗いだけになっていて、何も――床や地面がどこにあるのか、そもそも自分がどこにいてどんな状態になっているのか、立っているのか座っているのか横になっているのかあるいは逆さまになっているのか、そんなことすら分からなくなってしまっていて、私は指一本動かすことさえできなくなってしまっているのだった。
「あなたが望みさえすれば、あなたは今のままずっと存在し続けることができるのですよ。それこそ永遠に」
こいつは何を言っているのだろう。
「どうですか? 悪い話ではないのではありませんか?」
そんなわけがなかった。こんな、まるで幽霊みたいな状態で存在し続けたところで、何の良いこともあるわけがなかった。
気が付くと、私はさっきまでのように私を見下ろしていた。まるで、目が覚めた時のような、さっきまで夢を見ていたかのような気分だった。
夢?
おかしな話だ。眠っているときに見るものが夢だというなら、眠らされている今見ているこれだって夢のはずだ。けれどもほかの人たちは、私が眠っているのは現実のことで、私がこうして漂っているのも現実のことなのだという。考え始めるといつも混乱してしまう。考えれば考えるほど分からなくなってしまう。いったい何が夢で何が現実なのか。そもそも夢とは何で現実とは何なのか。
私は考えるのをやめた。どうせ分かったところで意味なんかない。要は早くあいつを叩きのめして、私が目を覚ませばいいだけの話だ。
そこから生まれる物語/小説トップ