君の匂い


「暁美ちゃん、なんだかいい匂いがする」
 帰り道、隣を歩く須藤くんが急にそんなことを言うもんだから、あたしは動揺のあまり、
「へっ!?」
 と予想以上の大声を上げてしまった。
「あ、いや、な、なに急に」
 須藤くんにも自分にも二重に驚きつつあたしは慌てて平静を装おうとしたけれども、
「シャンプーかな。洗剤かな。両方かな。いろんな匂いが混ざって暁美ちゃんの匂いがする」
 須藤くんはさらにそう言いながらあたしの肩?首筋?頭?に顔を近づけてきて、いや近い近い近いヤバいとあたしはちょっとどうしたらいいか分からなくなってしまう。ていうかあたしのにおい? 何それ!?
「そうだ! こっ、コンビニ行こう!」
「え? コンビニ?」
「でもって肉まん買おう! あとコーヒーも買おう!」
「いいけど、どうしたの?」
 気がつくと須藤くんは目を丸くしている。しまった。また予想以上の大声が出てしまっていたらしい。
「そしたら……肉まんとかコーヒーとかの匂いで、ちょっとごまかせるかなって……思って」
 そしてしどろもどろになるあたしに須藤くんは優しく笑った。
「いや、別にクサいって言ってるわけじゃないよ」
「う、でも、えーと、ほら、寒いし」
 動揺とかパニックとか変なテンションとかいきなりな言動とか要するに急に近づかれてどきどきしてるのとかいろんなことをごまかすようにあたしはそんなことを言ってみる。確かに、さっきまでは普通に寒かった。そんな季節だし。でも今は正直全然寒くない、逆に何だか暑いくらいだ。
「そうだね」
 けれども須藤くんは普通にうなずいてくれて、それからあたしたちはコンビニに行って結局肉まんだけ買ってほこほこ食べながら帰った。そういえば須藤くんの匂いとか気にしたこともなかったなと思ってあたしは途中さりげなく深呼吸してみたけれどももう肉まんの匂いに紛れてよく分からなかった。


 ちなみに後日この話を美紀ちゃんにすると、
「あらエロいわね」
 の一言で片づけられてしまった。ていうかこれってエロい話だったの!?



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