真っ直ぐに刺さる
「ちょっと、いいですか?」
「ん?」
顔を上げると、ひとりの少年が目の前に立って怖い顔でおれを睨んでいた。いや、緊張のあまり怖い顔になってしまっているようにも見える。
「あれ? きみはたしか、あの子の」
その少年には見覚えがあった。少し前、彼女が照れ臭そうに紹介してくれた、噂の彼氏だ。
「どうしたんだい?」
すると彼はますます怖い顔をした。
「あの。あなた、何なんですか?」
「あの子の?」
そのストレートな訊き方に思わず笑みがこぼれた。
「そうだな、友達……というのも申し訳ないくらいの、ただの知り合いだよ」
「本当にそれだけですか。本当は他に何かたくらんでるんじゃないんですか」
真っ直ぐに睨みつけてくる視線は、しかし不安げに揺らいでもいた。彼が何を不安に思っているのか分からなくはなくて、彼には申し訳ないが、なんだか微笑ましかった。
「心配しなくていい。おれは何も望んでないし、望んじゃいけないと思ってるし、望んだところで勝ち目はないことぐらい分かってるから」
けれども突然、泣きそうになった。眉間と喉に力を入れて懸命に堪えていなければ、みっともなく泣き叫んでしまいそうだった。せめて彼のその視線から目を背けたいのに真正面に立つ彼はさりげなく遠くの景色に目をやることすら許さない。
「大丈夫だよ。もっと自信を持ちなさい。そして彼女のことを信じてあげなさい」
ごまかすように偉そうなことを言いながら、おれはただ、笑顔を作り続けるしかなかった。
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