非道い(ヒドイ)こと
「あのさあ佐倉、私、あんたと別れろって言われちゃったんだけど」
「え?」
私の言葉に佐倉はきょとんとしていた。
「いや、別れろって言われても」
「そうよねえ」
そもそも私と佐倉は付き合ってなどいない。
けれども、いつもつるんでいるせいかそう誤解されてしまうこともたまにあった。最近は桐島くんも仲間に加わるようになったから少しはそういう誤解も減るんじゃないかと思ってたんだけどなあ。
「だいたいあんたが悪いのよ。どうせまたテキトーに女の相手したんでしょう」
「いや、ちゃんと説明するようにしたよ? 俺はお前のことなんかどうでもいいんだけどって」
ちなみに勘違いしてきた女は一応顔と名前ぐらいは一致する程度のたいして親しくもない同級生だった。私からすればただボーッとしてるだけにしか見えない佐倉だが、その得体の知れなさがミステリアスにでも見えるのか彼は意外とモテるらしく、呼び出されて告白だの待ち伏せられて告白だのいう話は今までにも何度かあった。どうでもいいなら相手などしなければいいのに、こいつときたらこれ幸いとばかりに手を出すものだから、勘違いする奴が現れてしまうのだ。
それとも、
「ねえ佐倉」
いっそ嘘でもとりあえず付き合ってることにしてしまえば、少しは面倒もなくなるのだろうか。
「どうして私には手を出さないの」
「何言ってんだ」
けれども彼は即答する。
「そんな非道いこと、できるわけないだろう」
「……」
それはすでに何度か冗談めかして交わされていたやり取りだった。
つまり彼の中ではそれは単に暴力的なだけの『非道い』ことでしかなくて、だから逆にどうでもいい奴相手にしかできないのだ。そしてどうやら私のことは少しは特別だと思ってくれているらしく、それがかえって裏目にでてしまっている。
(裏目って)
なんだそれは。これではまるで私が彼とどうこうなりたいみたいではないか。
そうじゃなくてただ私は、なんだかほんの少しだけ寂しいような気がした、それだけだ。
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