川辺さんに眼鏡チェーン


「あれ?何作ってるの?」
「え?」
 ふいに後ろから声をかけられ、作業の手を止めて振り返ると、波多野先生が不思議そうにあたしの手元をのぞき込んでいた。
「ああ、ええと……こう、眼鏡につけるチェーンみたいなやつです」
 机の上には色とりどりのビーズ、それをランダムにテグスに通すだけのシンプルなものだ。今度川辺さんにあげようと思って作っていたところだった。
「え?ひょっとしてぼくに?」
 ところが波多野先生に笑顔でそう言われてしまってあたしはちょっと慌てた。しまった、先生も眼鏡だった。
「あ、いや、えーと。すみません違うんです。なんていうか、いつもお世話になってるみたいな人にあげようと思って」
「ああ、そうなんだ」
「面白い人なんですよ」
 あたしは川辺さんのことを思い出して少し笑った。
「いつも眼鏡をポケットに入れてたり頭に乗せてたりはしてるのに、なぜかかけることはないんてす。だからこういうのがあったら無くさなくて便利かなと思って」
 色とりどりのビーズでちょっと派手めな眼鏡チェーン。これで首から眼鏡を下げてる川辺さんを想像するとちょっと可笑しかった。
「え?でもそれじゃあ老眼鏡ぶら下げてるみたいになるんじゃない?いや、実際そうなのかな?」
 先生もちょっと笑いながら言った。もし自分がつけたらと想像してしまったのかもしれない。まあウケ狙いで作っているようなもんだからそれでいいんだけど。
「いや、老眼鏡じゃなくて伊達眼鏡だって言ってましたよ。なんかお守りみたいなものだって」
 あたしは作りかけの眼鏡チェーンを少し離して眺めてみた。ようやく半分くらいといったところだ。ただビーズをテグスに通していくだけの単純な作業だけれど、さすがにちょっと疲れてきた。少し休憩しようかな。
「……え?」
 そして作りかけのそれを慎重に机に置いてやれやれと首を回していると、ふと視界に入った波多野先生は何やらひどく驚いたように呆然としていた。
「え?先生、どうかされたんですか?」
「あ、いや……」
 先生は取り繕うようにちょっと笑って、ひと呼吸置くとふと真面目な、緊張したような面持ちになった。
「えーと、急にごめんね。あのさ、その人のことなんだけど……もう少し詳しく教えてくれないかな?」



そこから生まれる物語/小説トップ
- ナノ -