花束


「ただいま」
「あ、おかえりー」
 その日は休日で、ちょっと出かけてくる、と言って出た涼が帰ってきたところだった。
「て、涼?どうしたのそれ」
 その涼が手にして――いや、抱えていたものに、ぼくは目を見開いた。
 それは大きな花束だった。いろんな白い花がメインのなかなか豪華なものだ。
「ま、まさか女の子にもらったの?ちょっと出かけてくるってひょっとしてデートだったの?」
「うるせーな、透は引っ込んでろよ」
 涼はぼくをちらりと見て顔をしかめた。その顔が心なしか赤くなっているような気がする。や、やっぱりデートだったのかな。
「親父」
「ああ、おかえり」
 なんだかオロオロしてしまうぼくをよそに、涼は新聞を広げる兄貴に向かうとその花束をちょっとぶっきらぼうに兄貴に差し出した。
「あの、これ」
「ん?何だ?」
「その、今日父の日だから」
「え?」
 あ。そうか。
 ちょっとハラハラしながらその様子を見守っていたぼくも、涼のセリフにそうか、と思い至った。そういえばなんかテレビとかでも言ってたなあ。
「本当は服とか靴とかにしようと思ったんだけど考えたらサイズ分かんなかったし親父ネクタイしないし、そしたらたまたま花屋で宣伝してたからさ、ていうかなにぼけーっとしてんだよ早く受け取れよ!」
「ああ、ごめんよ涼。ちょっとびっくりして」
 兄貴は笑って花束に手を伸ばした。
「そうか、父の日か。まさか涼にこんなことをしてもらえるとはな」
 しみじみと言いながら花束を見て、視線を上げて涼を見て。
「ありがとう。涼」
「あ、先に言ってんじゃねーよ親父!あの、その……、いつもありがとう」
「こちらこそ」
 ……いいなあ。
 照れくさそうな涼と嬉しそうな兄貴が微笑ましくて、なんだかぼくまで幸せな気分だった。ぼくは完全に蚊帳の外だったけれども。
「じゃあ、せっかくだからこれ飾らなきゃな」
「ああ、透やっといて」
「え、そこはぼくなんだ」



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