がらがらがしゃーん


(静かだなー)
 放課後の図書室。あたしは図書委員の貸し出し当番でカウンターにいた。さっきまでは生徒も結構いたのだけれども、今はちょうど途切れ目というかそんな感じで、図書室に人の気配はなかった。
(暇だなー)
 まあそんな時はだいたいその辺から本を取ってきて読むか、宿題をするかなんだけれども、今日はどちらもする気になれずあたしはぼんやりしていた。
(…………)
 あたしは隣を見た。貸し出し当番は基本二人一組で、図書委員の誰と一緒になるかは日によって違う。そして今日はたまたま同じクラスの須藤くんと一緒だった。
 ふふ、と笑みがこぼれた。今日はラッキーだなあ。貸し出し当番が須藤くんと一緒だと分かった時には内心ガッツポーズだったし。……いや、貸し出し当番はローテーションだから何回かに一度はそうなるのは分かっているんだけれども。
 須藤くんはさっきから黙々とノートに向かっている。どうやら宿題をやっているらしい。難しいのかな。時々眉をしかめたり、頭をかいたりしている。
「……何?」
 と、突然須藤くんがくるりとこちらに顔を向けた。
「うひぇっ!?」
 そのきょとんとした様子に、どれくらいの時間かは分からないけど結構まじまじと須藤くんのことを見てしまっていたことに改めて思い至り、そういえば静かで広々とした図書室に今あたしと須藤くんの二人きりだということにまで気づいてしまい、何だか急に暑くなったようなわけのわからない感じになって、気づけばあたしは立ち上がってしまっていた。それもかなりの勢いだったらしくキャスターつきの椅子がガラガラガシャーンとすぐ後ろの壁にぶつかる音がしていた。
「あ、えーと、その」
 あたしは咄嗟にカウンターの上に置いてあった返却済みの本をがばっとつかんだ。
「そうだ!あああたしちょっとこれ片づけてくるね!」
「ええ!?ちょっと春日さん!?」
 そしてカウンターの角に足をぶつけたり何もないところでつまづいてよろめいたりしながらバタバタと走ってとりあえず本棚のかげに隠れるようにすると一つため息をついた。
(まいったなあ)
 顔どころか全身が熱くて汗までにじんでるし胸はどきどきして息も上がってるし。
 いつの間にかぎゅっと抱え込んでいた本をああそうだと思って本棚に片づけようとするけれども、気が付けばその本とは全然関係のない本棚の前に来てしまっていた。



そこから生まれる物語/小説トップ
- ナノ -