お祭り行きませんか


 今日は近所で夏祭りがある。
「ねえ美紀ちゃん、今日お祭り行く?」
「うーん……どうしようかなあ……」
 もう夏休みだけれどもあたしも美紀ちゃんも毎日学校に来ていた。部活動だ。といっても特に何かするわけでもなく、クーラーの効いた部室で申し訳程度に宿題のノートを開いてただだらだらとおしゃべりしているだけなんだけれど。
「ていうか一緒に行こうよ」
「え?何言ってんの。暁美は彼氏と一緒に行くんでしょ?いいなあこのリア充め」
 美紀ちゃんを夏祭りに誘うと当たり前のようにそう言い返された。いや彼氏って何リア充って何。
「……別にそんなんじゃ」
「またまたご謙遜を」
「だって今日だって別に約束してないし」
「あらそうなの?」
 ちなみに美紀ちゃんの言う『彼氏』とは、あたしや美紀ちゃんのクラスメートの須藤くんのことだ。美紀ちゃんはすっかりそう思い込んでいるようだけれども、実際は特に何か、例えば告白なんかもまだしてないしもちろんされたわけでもないし、学校では少し仲の良い友達みたいな感じで普通に話とかはするけれども逆に言えばその程度だし、夏休みに入ってからはまだ何となく理由も見つからなくて結局会えてないままだし、でもお互いアドレスは交換したからたまにメールするくらい、かなあ。
「でも本当は須藤くんと行きたいんでしょ、夏祭り」
「うん」
 あたしは素直にうなずいた。そりゃあもちろん行きたい。須藤くんと夏祭り。出店の並ぶ間を二人で(できれば手をつないで)歩いたり、何か(かき氷がいいかな)買って一緒に食べたり、ちょっと人気のない暗がりで二人きりで打ち上げ花火を見たり。うわ。こうやって考えてるだけでもちょっとドキドキしてくる。
「じゃあ暁美から誘えば?」
「えええっ?」
 美紀ちゃんの言葉にあたしは妄想から一気に現実に引き戻された。
「やあねえ何驚いてんのよ。アドレスぐらい知ってるんでしょ?だったらメールすればいいじゃない」
「で、でも」
 そんな、美紀ちゃんは簡単に言うけどさ。
「だって、なんていってメールすれば」
「そんなの、今日お祭り行かない?でいいじゃない。いやいっそ電話したほうが早いかな。いいからほら早く携帯出しなさい」
「ううう」
 でもほら実は何か用事があって今日は行けないとかだから何も言ってこないのかもしれないし。
「案外向こうも暁美から誘われるの待ってるのかもよ?まあそういうのも男としてはどうかと思うけどね」
「……うー」
 あたしはまだちょっとパニクったままカバンを引き寄せて携帯を取り出した。すると、
「なんだ、メール来てるじゃない」
 美紀ちゃんの言うとおり、携帯の画面には新着メールを告げるサイン。差出人は須藤くん。今日お祭り行きませんか。
「うえぇぇぇえ!?」
 あたしは思わず立ち上がった。そんなあたしを美紀ちゃんがニヤニヤ笑いながら見上げている。
「まあよかったわね」
「うん」
「なんだったら一緒についてってやろうか」
「……美紀ちゃんのいじわる」



そこから生まれる物語/小説トップ
- ナノ -