15日のチョコレート


 2月15日。あたしは昨日渡せなかったチョコレートを今日も鞄にしのばせて学校に向かっていた。
 今日渡せなかったのなら明日渡せばいい、気持ちを伝えるのに決められた日なんてないんだから。渡せず落ち込んでいた昨日、そんなふうに励まされて、こうして今日もまた持ってきているわけなんだけれども。やっぱり今更チョコ渡すなんてなんだか変じゃないだろうか、だいたい渡すにしてもいつ渡そう、休み時間や放課後には他の友達が気になるし、だからといってわざわざどこかに呼び出すなんてとてもとても。
 バスを降りてあたしはとぼとぼと学校まで歩く。知らず歩くスピードも遅くなってしまっていたのか、いつの間にか一緒にバスを降りた人たちは先に行ってしまっていた。ちらりと時計に目をやる。まだそんなに慌てなくてもよさそうな時間だ。
 どうしようかなあ。
 確かに渡したいことは渡したいのだ。彼のために長時間迷いに迷って選んだチョコレート。そしてできればもっと仲良くなりたい。ただのクラスメイトじゃなくて、もっと。
「あれ、春日さんおはよう。どうしたの?」
「えっ」
 そんな風にぐるぐる悩みながら歩いていると突然声をかけられてあたしは顔を上げた。後ろからやってきてあたしの隣に並んだのは
「うええっ!?須藤くん!?なんで!?」
「ええ!?なんでって!あれ?なに?どうしたの?」
 あたしは驚きのあまり思わず大声をあげてしまった。相手もつられたように驚いて目を丸くする。いやまあいきなり変な大声出されたらそりゃあ驚くだろうけど。
「あ、いや、ごめんね、なんでもないなんでもない」
 けれどあたしも驚いたのだ。何しろ、つい今しがたまでどうやってチョコを渡そうかと悩んでいたところにいきなりその相手が現れたわけなのだから。いったいなんなんだこの展開。ちょっと都合良すぎやしないか。
「えーと、おはよう」
「おはよう」
 取り繕うように改めて挨拶すると須藤くんも何事もなかったように挨拶を返してくれた。学校まではもう少し歩かなければいけないところで、さりげなく振り返ってみても特に見知った人影はない。
 あたしは隣を歩く須藤くんをちらりと見た。うわどうしよう。どう考えても今がチャンスだ。
「あのさ須藤くん」
「ん?」
「えーと、こ、これ」
 あたしはおろおろと途中落としそうになりながら鞄からチョコを引っ張り出した。
「え?なに?」
「あのごめんねいきなりえーとその昨日渡しそびれちゃってさチョコレート」
「え?チョコレート?僕に?」
「うん、そうそうそう」
「ほんとに?」
 はじめはきょとんとしていた須藤くんの顔がふわっとほころんだ。そして笑顔でチョコを受け取ってくれた。うわ、やった!
「どうもありがとう」
「いいえこちらこそ!」
「え?」
「あ、いや……」
 笑う須藤くんをちらりと見てあたしもえへへと笑った。なんだかほっとしたような余計舞い上がってしまったようなちょっとわけのわからない感じで、もうこのままダッシュで教室まで駆け抜けて行けそうな気分だった。



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