侮るなかれ


「あれ?前りょーちゃんに話したことなかったっけ、ウォーターカッターの話。いや、あれは葵ちゃんだったのかなあ。ごめんね、なんか最近もう昔のこととかよく分からなくなってきてて」
「……ボケるにはまだ早いんじゃないですか」
 俺は冷静さを装ってそんなふうに言ってみた。だが実際はとても穏やかな心境ではない。
「こんな時でもツッコミ忘れないなんてさすがだねえ、りょーちゃん」
 桂木さんはちょっと笑った。その手の中の水鉄砲はまっすぐ俺に向けられている。その場から動けないまま俺は首だけ動かして背後の窓をちらりと見た。その窓ガラスは粉々に割れてしまっていた。
 ――水鉄砲をあなどっちゃあいけないよ。ウォーターカッターって知ってる?なんか水圧でいろいろ切っちゃうやつ。
 桂木さんの言うウォーターカッターの話なら聞いたことがあった。水鉄砲にウォーターカッター並みの威力があればそれは充分凶器になりうる。
 ――でも、それにはかなりの改造が必要じゃないですか?
 ――違うよ、改造するのは水鉄砲じゃない。それを持つ人間の方さ。
「特殊能力ってやつですか」
 俺の言葉に桂木さんはただ笑みを浮かべているだけだった。だがその顔色は心なしか悪いような気がする。
「無駄遣いしていいんですか?反動で倒れるんじゃないんですか」
 そうだ、特殊能力は使えばその反動がくる。確かそうも言ってなかっただろうか。
「ご心配ありがとう。でも反動の影響が出るまでにはタイムラグがあるんだ。だから、たとえ明日一日使い物にならなくても今これでりょーちゃんを撃ち殺すことは可能だよ」
「俺を殺す気ですか」
「さあ、どうしようか」
 また窓ガラスの割れるけたたましい音がした。



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