愛を食(は)む人
私と彼はごはんを食べに行った。
私はおなかがすいていたので、普通にいろいろ頼んだのだけど、彼の方は、飲み物だけで、あとはなんにも頼まなかった。
「食べないの?」
「うん」
不思議に思って私が訊くと、彼はにこりとうなずいた。
「どうして?」
「だって、君に愛されてるから」
「は?」
「言ってなかったっけ? 俺、愛を食べて生きてるのよ? だから、君が愛してくれれば、それだけで生きていけるの」
私は目を見開いて、まじまじと彼を見た。脱色した金髪、フレームの太い眼鏡、無精ヒゲ、ちょっとぽっちゃりしてきた丸顔、笑顔。
驚いた。まさかこの人からこんなセリフが出てくるとは思わなかった。
「本当?」
「本当だよ。だから逆に、愛してくれなきゃ、俺、飢え死にしちゃうよ?」
ワンテンポ遅れて、じわっと、顔が、胸が、熱くなってきた。
「……とかなんとか言って、本当は単にダイエットとかなんじゃないの?」
私は照れ隠しにそう言って笑った。
けれども、なんかもう、さっき注文したものが運ばれてきても、胸がいっぱいで食べられないような、気がした。
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