けれども、気がつけば俺は、世界の果てのことばかり考えているのだった。ユマの話とともに広がったイメージが頭から離れない。地面を切り裂いたように現れる、世界の果て。その向こうには闇が広がっているようで、けれども何かがきらめいていた。まるで夜空か、宇宙のように――いや、あれは本当に宇宙なのだ。ここではない、別の宇宙。
「おい」
「あ、え?」
 そんなことを考えていると突然、ヤトに声をかけられた。
 ユマとは図書館で別れ、俺はヤトとのんびり夜道を歩いて帰っているところだった。ユマがいないと静かだ。まあその静けさは別に気まずいものではなくむしろ居心地のいいものなのだけれど。
「どうしたんだ?」
 ただ、どうやら俺はよっぽどぼんやりしているように見えたらしい。ヤトの表情はなんだか心配そうだ。
「ああ」
 気にするな、というように俺はヤトに笑いかける。
「ちょっと、世界の果てのことを考えてた」
「世界の果て?」
 やっぱりヤトはユマの話を聞いていなかったらしい。いぶかしげに眉を寄せるヤトに、俺はユマから聞いた話をしてやった。いつどこに現れるか分からない――いつこの足下に現れてもおかしくない、世界の果て。そこから下を覗けば別の世界が見え、そこから飛び下りれば別の世界へ行けるのだ。
「なんだ、それは」
 ところが、俺の話を聞いたヤトはますます顔をしかめて言った。
「そんなこと、考えるもんじゃない」
「え……?」
 思いもよらない反応に、俺は驚いた。まるで何かを咎められているようで、なんだか、気まずい。
「どうしたんだよ、ヤト」
「カイ」
 険しい表情でヤトは続ける。
「どうしてお前はそんなものが気になるんだ。何か不満とか悩みでもあるのか? この世界が、嫌になるような」
「……別に、そういうわけじゃないけど」
 そういうわけではない。ただ……そうだ、すごい話だとは思う。だって、この世界を飛び出して別の世界へと行くのだ。こんな大冒険、他にあるだろうか。



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