知ってる? 世界には果てがあるんだよ、と、図書館で本をめくる俺の手元を横から覗きこんでユマが言った。
「果て?」
「うん」
 俺がちらりとユマを見やると、ユマはうなずき、得意げな笑顔で俺を見た。
 なんでも、世界はその生まれた場所を中心に平らに延びているのだそうだ。だからもちろん端があり、そこから下を覗けば別の世界が見え、そこから飛び下りれば別の世界へ行けるのだという。
「なんだそれ。どこのおとぎ話だよ」
 あきれて思わず呟くと、今度は俺の向かい側で突っ伏していたヤトがむくりと起き上がった。
「さっきから何言ってるんだ?」
 まだ眠そうな様子のヤトに、今度は俺が説明してやった。世界には果てがあるんだってさ。
「んなわけあるかっての、なあ」
 本にだってちゃんと書いてあるんだ、俺たちが住んでいるのは平らな円盤の上なんかじゃないんだって。
 俺は本を指で叩きながらユマに言ってやった。するとユマは、それくらい僕も知ってる、けれど、と猛反発してきた。
「僕が言ってるのはそういうことじゃないんだ。僕はこの地面に果てがあるって言ってるんじゃない、この世界、つまりこの空間に果てがあるって言ってるんだよ」
 は?
 空間に果てだとか言われても。
「わけ分かんねえんだけど。ヤト、分かる?」
 ヤトは両手で頬杖をついて、まだ眠そうにぼんやりしている。俺が話を振ると顔をしかめて首をかしげた。
「ごめん、何が?」
「何がって」
 こいつ聞いてなかったのかよ。やれやれ。
「まあさっきの僕の説明もちょっと分かりづらかったかもしれないね。平らに延びていると言ってもそれは別にペラペラってわけじゃなくてある程度の厚みがあるんだ。その厚みの中に、僕らをはじめ世界のすべてがおさまっているというわけ」
 ヤトとは逆にユマは絶好調だ。俺もなんだかだんだん面倒臭くなってきて、へえ、とてきとうに頷いた。
「もう、カイってば聞いてる? さらに面白いのはここからなのにー」
 面倒臭そうな俺の様子に気付いたのか、ユマは俺の腕を容赦なく掴んで揺さぶってきた。なにすんだよ、と俺がそれを振り払っていると、突然ヤトが立ち上がった。
「カイ」
「なに?」
 俺は驚いてぽかんとヤトを見上げた。
「帰るぞ。もうこんな時間だ」
「ああ、ほんとだ」
 ぼそぼそと言われて時刻を確認すると、確かにもうそろそろ図書館も閉まるころだった。そういえばいつの間にか図書館には俺たちだけになっている。
 俺たちは連れ立って図書館を出た。見上げれば、暗い紺色の空には星がきらめいていた。



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