どーんと当たって


「じつはさあ……すきなひとができたみたいなんだよねえ……」
「えええ!?」
 最近いつにもましてボケーっとすることの多くなった友人のハルタに、何かあったのかと問いただしてみれば、彼から返って来たのはそんな答えだった。
「えっと……。誰? とか訊いてもいいのかな?」
「うん。あのね」
 俺が尋ねると彼はどうやら話したかったらしく、嬉しそうに教えてくれた。
「えっ?」
 だがその指さした方を見て俺は青くなった。なぜならそこには我が愛しのヨリコさんの姿があったからだ。
「あ、いや、どっち?」
 いや、慌てるにはまだ早い。自分にはヨリコさんしか見えていなかったから一瞬分からなかったけれども、よく見れば彼女はそのお友達のカヤマさんと一緒に楽しそうにお話ししている。そして幸いなことにハルタが見ていたのはそのカヤマさんの方だった。
「そっかー。よかったなあ」
 俺はしみじみとそう言った。それなら俺も心から彼のことを応援できるってもんだ。実はハルタもヨリコさんのことを、とかいうことにならなくて本当によかったと思う。芸人の誰々みたいだとか言われてしまう自分に対して、ハルタは(本人は自覚はなさそうだが)なんていうかアイドル系のイケメンだ。もし万が一ライバルということになりでもしたらとても勝てる自信はない。
 ヨリコさんには一目惚れだった。初めて見た瞬間にビビッとくるだとか、雷に打たれたような衝撃が走るだとか、信じられなかったけれどもまさにその通りだった。いや、雷に打たれたことはないから分からないけれど。
「それじゃあ、こう、あれだな。どーんとぶつかっていかないと」
「どーんと?」
「そう。どーん! と」
 そんなことを言いながら、まずは俺の方こそどーんとぶつかっていかなきゃいけないな、と考えていた。当たって砕けてしまうのは怖いけれど、誰かに先を越されて後悔するよりはきっとマシだと思うのだ。



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