ダブルなんちゃら
「おはよう!」
「あ、おはよう」
朝の教室。えへへと笑う彼にあたしもえへへと笑い返した。それだけなんだけれども、幸せだなあ、なんて思ったりする。いわゆるあれだ、君といる時が一番幸せなんだ、てやつだ。何せ、あたしと彼は昨日めでたく付き合い始めたばかり、出来立てほやほやのカップルなのだから。
「あらまあ」
そんなあたしの様子に、一緒にいた友達のヨリちゃんも何か勘づいたようだ。
「ちょっとどうしたのよ。ていうか何なのよ今のは」
「えへへへー。別になんでもないよー」
けれどもここはとりあえず一度はしらばっくれてみるもんだ。
「あら。なんか向こうの方では万歳三唱が始まってるようだけど?」
そう言ってにやりと笑うヨリちゃんの指さす方を見れば、彼が友達のカンバヤシ君と一緒にバンザーイ!とやっているところだった。何やってんだ可愛いなあ。
「ほらほら、何でもないわけないでしょ。正直に白状しなさいよ」
とか言いながらヨリちゃんもだいたいのところは見当がついているのだろう。にやにやしながらあたしを突っついてくる。
「いやあ、実はね」
あたしも一緒にバンザイしたい気分であたしはヨリちゃんに事の次第を話した。
「なるほど、それで浮かれてるわけね」
うんうん、と頷くヨリちゃんも何だかんだいって喜んでくれているようだ。
「そういうことならほら、行くわよ」
と、急にヨリちゃんはそう言って立ち上がった。
「え? 行くってどこに」
「決まってるじゃない、彼のもとよ」
「えー、別にいいよー」
「何言ってるの、四六時中ずっといちゃいちゃしてたいくせに」
「えへへー」
あたしがへらへらしていると、ヨリちゃんはやれやれとばかりにあたしの手を掴んで彼(とカンバヤシ君)の所へ引っ張っていった。
「えーと、おはよう」
「……おはよう」
改めて向き合うとなんだか急に照れくさくなって、あたしと彼は結局またさっきと同じように挨拶してしまう。
「あら奥様、ちょっとお聞きになりました?」
「ええええ、もちろん聞きましたとも〜」
ヨリちゃんの方はといえばカンバヤシ君をぺしんと叩きながら何やら話していた。その仕草や口調は二人してまるで井戸端会議だ。
「そういえば、さっきカンバヤシ君とバンザイしてたみたいだけど」
「あ、それはね」
聞けば、あたしがヨリちゃんにいろいろ相談していたように、彼はカンバヤシ君にあれこれ相談していたそうだ。それで一緒にバンザイしてたのか。いい話だ。
「何はともあれ、二人もめでたく付き合い始めたことだし、今度ダブルデートしようぜ」
そんな中、カンバヤシ君がそんなことを言い出して、あたしと彼はそれぞれきょとんと目を丸くした。
「ダブルデート? 誰と」
まあ一組はあたしたちだとしても。
「え? 俺らと」
するとカンバヤシ君はにやりと笑って自分とヨリちゃんを交互に指す。
「ねー」
ヨリちゃんとカンバヤシ君の声がハモった。
「えー!!」
あたしと彼の声もハモった。
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