刃物が怖い


 昔から、包丁とか刃物を持つと妙に緊張してしまう。
「それは普段から使ってないからよ」
 そう彼女に言われてにらまれてしまえばごもっともですと頭を下げるしかないんだけれども。
「もしかしたら僕は前世で刃物か何かで殺されでもしたんじゃないかなあ。だからきっとそういうのがちょっと怖いんだ」
 そう言うと彼女はなぜかニヤリと笑った。
「あら。もしかしたら逆に刃物を振り回す方だったのかもしれないわよ?そしてそんな自分を思い出してしまいそうで怖いのよ」
「おいおい、恐ろしいこと言うなよ」
 僕は肩をすくめながら同時に、なるほど、と思った。
「やだ、別に変な意味じゃないわよ。例えばお侍さんとかそういうのだったんじゃないかなって話」
「そうか、そういう考え方もあるんだね」
 なんだろう。腑に落ちた、みたいな。
「ねえ」
 僕もニヤリと笑ってみせた。さっきの彼女のように。
「もしいつか僕が本当に刃物を振り回すようなことになったら、今日のことを証言してくれるかな」
「ふふふ、いいわよ」
 彼女は笑ってそう言った。自分が被害者になる可能性など考えもしていないようだった。



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