落書き


「世界なんていうやつは結局己の意思でどうにでもなるものなのだよ」
「へ?」
 私は寝そべって落書きをしていた。紙に色鉛筆で思うままぐりぐりと線を書く。色とりどりの線が複雑に絡み合うそれは我ながら面白い出来だ。
「急に何ー?」
「世界は認識されることによってその形を保つ」
 あいつは私の背中の上でマッサージのつもりなのかゆっくりと足踏みしている。頭の真後ろから声が聞こえてくるのはちょっと奇妙でこれまた面白い。
「つまり己の認識するものが己の世界なのだ。認識するものを選択することによって我々は世界を思うままに構築できる」
「んー、なんかよく分かんないんだけど」
 私はもう一枚紙を取ってまた新たに線を引いた。
「要するに、認めたくないことは認めなければいいって話?」
 それはワガママな話だなあと思いながら、数字の2に似たカーブを描く。今度はあいつの似顔絵だ。
「おい、なんだその絵は」
「ん?あんたの似顔絵」
「まるでアヒルじゃないか、描き直せ」
「えー、だってあんたアヒルじゃないの」
 あいつはガーガーいいながら私の背中の上で羽をバタつかせて飛び跳ねていた。ちょっと痛い。
「まったくもう……」
 私はまた新しく紙を取った。しょうがないので今度はもうちょっと格好良く描いてあげることにした。



その他小説/小説トップ
- ナノ -