シャボン玉宇宙


「シャボン玉というやつは、さながら一つの閉じた宇宙だ」
「は?突然なんの話?」
「何が突然だ。君は今シャボン玉を作っているじゃないか」
「まあ、確かにそうだけど」
 暇だったので片付けをしていたら見つけたシャボン玉セット。懐かしくなって早速吹いて遊んでいる。当然のことながら片付けは中断だ。そんなもんだ。
「で、シャボン玉がなんだって?」
 私はそう言うと今度はゆっくりと慎重にシャボン玉を膨らませ始めた。今度はどこまで大きくできるか挑戦だ。
「宇宙は無のゆらぎから膨張によって始まる」
「うん」
 あ。もう割れちゃった。今度は勢いよく吹いて、小さいのをたくさん作った。よく晴れた青い空に、きらきらと光りながら、くるくると回りながら飛んでゆく。
「そのモデルはちょうどシャボン玉のようなイメージであらわされるんだ」
「へー」
「おい、聞いてるのか」
「聞いてるわよー」
 それにしてもいい天気だ。片付けなんか始めないで散歩にでも行けばよかったなあ。
「つまり私が言いたいのはこういうことだ」
「うん」
「もし今君が作っているシャボン玉が本当に閉じた宇宙であって、作られてから割れるまでのわずかな間に、星が生まれ地球にも似た何かや人間にも似た何かが生まれそれらが喜び悩み愛し合い生き死にそして滅びていたら、と思うと、不思議な気持ちにならないか」
「…………」
 いつのまにか私はシャボン玉を作るのも忘れてその話に耳を傾けていた。
「そしてもしかしたら我々の住むこの宇宙さえも、さらに大きな存在の作ったシャボン玉なのかもしれない、とは思わないか。そう思うと我々の存在のなんと小さなことかと、生きることの悩みや苦しみのなんとちっぽけなことかと思わないか」
 私はぽかんと口を開けたまま隣を見た。
「……やだあ」
 そして笑った。
「もう、アヒルのくせに何言ってるのよー」
 私はその小さな頭をちょんとつついた。するとアヒルは不機嫌そうに羽をばたつかせてクワッと鳴いた。
 だが決して私はこいつのことを馬鹿にしているわけではない。むしろ私はこいつのこんなところが大好きだった。



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