約1.5メートルの距離


 彼女はいつものようにお気に入りの窓際で壁にもたれ掛かるように立ち、ただぼんやりと外を眺めていた。
 俺もいつものように彼女の近く、約1.5メートルの距離を置いたところに立ち、同じように外を眺めていた。
 窓の外はうららかに晴れ、薄い色の空が広がっていた。日のさす窓際はとても暖かく、眠気を誘うぼんやりとした空気が漂っていた。
 大抵は、俺が声をかけない限り、彼女がこちらを見ることもない。俺がここにいることにすら気付いていないこともあった。
 なんとなく、分かったことがある。
 彼女はいつもぼんやりと窓の外を眺めているように見えるけれども、本当は別のものを見ているのだ。
 そして俺もいつも一緒になって窓の外を眺めているように見えるけれども、本当はやはり別のものを見ていたのだ。
 同じ場所で同じものを見ているように見えて、けれども本当は違うものを見ていたのだ。
(ねえ)
 俺のかけようとした声は、何かにつかえて出てこなかった。約1.5メートル離れた場所で、俺はまるで床に固定されているかのように動けずにいた。
 蠢いたものの正体も、閃いたものの正体も分かったのに、巡る苛立ちをしずめることも、吹きつける風を優しくすることもできないのだった。
 彼女はいつものようにお気に入りの窓際でぼんやりと何かを見ていた。
 俺もいつものように彼女の近くでぼんやりとそんな彼女を見ていた。
 約1.5メートルの距離。それを、どうしても縮められずにいた。



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