AFTER


 なんとも中途半端な明るさの、ぼんやりとした淡い闇が、時折揺らめく空間に、二人の人が漂っています。一人は足下にぽっかりと開いた穴を覗き込むようにして、もう一人もその傍らに寄り添うようにして。
 二人は、まるで鏡に映したように、全く同じ姿形をしていました。二人は双子の兄弟なのです。穴を覗き込んでいる方が弟、その傍らに寄り添っている方が兄。
 仲良く寄り添うこの双子の兄弟の他には、ここには、今は誰もいません。先ほどまで、兄がどこからか連れて来た青年と少年の二人連れがいたのですが、その二人も、弟の足下にある穴に兄が突き落としてしまいました。
「なあ、おまえが見せてくれると言った、面白いものって何なんだ?」
 ふと顔を上げて、弟が兄を見ました。
「さっきの二人連れか?あいつらをこの穴に突き落として終わりなのか?」
「まさか」
 すると兄は笑って言いました。
「彼らは、これから始める『物語』をより面白くするための、いわば特別出演者です。ほら、知ってる人が出てくるほうが、『物語』は面白いでしょう?」
「『物語』?」
 弟はちょっと弾んだ声で尋ね返しました。
「ええ、そうです。……ほら、ごらんなさい」
 兄はうなずき、穴を指し示しました。それにつられてまた穴を覗き込んだ弟に、
「ちょうど、彼らを落とした世界が見えるでしょう?わたしがあそこに、しばらくの間、『物語』をつくります。あなたはここで、しばらくの間、それを観ていればいいのです。どうですか?これで少しは退屈凌ぎになるでしょう?」
 兄はそう語りかけると、にっこりと微笑みました。弟も、ぱっと顔を輝かせました。
「それはいいな」
 そして、穴の向こうが見やすいように、早速地面に腹ばいになると、弟は笑顔で兄を見上げました。兄も微笑みを浮かべたまま、弟にうなずき返しました。

 ぽう……

 兄の手のひらの上に、小さな光が生まれました。と、それはすべるようにその手のひらの上を離れて、

 すう――――――――…………

 と、穴の中へ吸い込まれてゆきました。
「さあ、ごらんなさい。『物語』が始まりますよ」
 穴の向こうから、淡い闇をかき消すように、光があふれ、そして――。


 とにかく、彼らは暇で退屈で暇で退屈で仕方がなかったのです。



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