花々


「うわ」
 部屋に現れた彼女は、そのまま入口のところで呆然と立ち止まっていた。
「どうしたの、これ」
 ぐるりと部屋を見回してつぶやく。
「えへへ」
 僕はそんな彼女にへらへらと笑いかけた。
 彼女が驚くのも無理はない。部屋は壁も床もテーブルの上も棚の上も、色とりどりの様々な花で埋め尽くされているのだから。それはまるでちょっとした花屋さんか植物園のように。
「すごいわね……これ全部買ったの?」
 彼女は花を眺めながらゆっくりとこちらへ向かって来る。
「んー、まあ買ってみたり摘んでみたり?」
「ふーん……」
 僕はしあわせな気分でその姿を眺めていた。花も綺麗だけど、その中に立つ彼女はもっと綺麗だ。
「私、花の種類とか詳しくないから、なんか凄いってことしか分かんないんだけど」
「うん。僕だって花の種類とかよく分かんないから綺麗だなってだけで集めてきたし」
「それにしても」
 花の間をくぐり抜けて、彼女は僕の向かい側に腰を下ろした。そしてまたぐるりと部屋を見回しながら、
「またどうして急にこんなこと」
「んー、なんていうか……」
 僕はちょっと首をかしげた。言葉にするのはなんだか照れくさいけれど。
「日頃の感謝の気持ちってやつかな?」
 もっとも、それはこんなもんじゃ足りないくらいだった。君が僕にくれる光、そのひとつひとつにこたえるとしたら。
「やだ、私そんな何かしたかしら」
 けれども彼女はそんなふうに言って困ったように笑うのだった。僕が彼女の存在にどれほど助けられているか、知らないままで。



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