涙目に夕日が染みる


 場所は近所の川辺の土手。服が汚れるのも構わず私は地面に体育座りして腕に顔をうずめていた。何時間か何分か分からないけれど私はもうずいぶん長いことこうやっていた。誰か通り掛かって私を変な目で見ていたもしれないし誰も通り掛かりやしなかったかもしれない。そんなことは分からないしどうでもよかったしそれどころではなかった。
 涙があとからあとから出てくる。目を閉じた闇の中、私はただひたすらに泣いていた。
 奴があんなひどい男だとは思わなかった。
 そんなことも見抜けない自分が情けなかった。あんな奴を少しでも好きだと思った自分は本当に馬鹿だと思った。
 こんなことぐらいで泣くなんて自分はなんて弱いのだろうと思った。けれども涙は勝手にあとからあとから出てくるのだった。
 ふとまばたきした私の目に赤い光が差した。
 体育座りした腕と足の隙間から容赦なく夕日が入り込んできているのだった。
 もう夕方なんだ。
 私は顔を上げた。目の前に赤い空と赤い夕日とそれらを映した赤い川が広がり、そしてそれらはあっというまに滲んでいった。
 眩しくて痛かった。
(負けるもんか)
 けれども私はむきになって目を開き続けた。
 まだ涙は出続けていたけれども、それはきっと、こうして目を開けっ放しで眩しい光を見つめ続けているからなのだ。



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