ハッピーハロウィン


 ぴんぽーん。
 ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん。
 夜。一人だらだらテレビを見ていると、嫌がらせのようなチャイムの音がした。
「はいはいはーい」
 てきとうな返事をしながら私は玄関へと向かう。こんなチャイムの鳴らし方をする人物を私は一人しか知らないが、一応ドアを開ける前に外をちょっと確認してみる。
「……」
 うわ。
 確認したことを後悔した。気付かなかった振りをしようかとちょっと本気で考える。いや、確かに外にいたのは予想通りの人物だったのだけれど。
「まったく……」
 ああでもこれをこのまま玄関前に放置しておくわけにもいかない。私はそう思い直して、仕方なくドアを開けた。
「何やってんの」
 あらためて溜め息ひとつ。
 ドアの向こうにいたのは、もう長い付き合いになる腐れ縁の愛しい彼。満面の笑顔はいいのだが、なんていうか……頭から全身にモップでも貼り付けたみたいな、もじゃもじゃのよく分からない格好をしていた。
 ……妖怪?
 そんな彼は、ドアを開けた私に向かって、いつもの元気な大声で言った。
「ハッピーハロウィン!お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ?」
「ハロウィン?」
 あー、ハロウィンねえ。そう言われてみれば確かにそれっぽく見えなくもないけれど。
「なんだ、あたしゃてっきりなまはげか何かだと」
「なまはげ?泣く子はいねが〜?て、おい!」
 彼はノリツッコミとともにぴょんと飛び跳ねた。
「なまはげじゃないよ!ハロウィンだよ!だからほら、お菓子ちょうだい?」
 そう言って可愛らしく小首をかしげている。でも、これに入れろとばかりに差し出してるのがスーパーの白いレジ袋じゃあねえ。
 私は眉間をもみほぐした。まったく、眉間にしわが刻まれたらどうしてくれるんだ。
 そのレジ袋にお菓子じゃなくて餅でも入れてやろうかと考える。ああけれども餅の買い置きはないんだった。
 私はあらためて彼を見た。また大層可愛らしい笑顔でじっと私を見ていた。
 ふふ、と私は思わず笑う。
 お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ、だなんてそんな可愛い顔して。こっちがイタズラしてやりたくなるよ。
「ねえ」
 だから私は彼のその顔をぐいと引き寄せ、キスをした。
「ほら、こっちの方が甘いでしょ?」
 甘いお菓子より甘いキスを。
 驚いて目をぱちくりさせる彼に、私は勝ち誇って笑いかけると、その手を掴んで家に上げた。



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