低下
寒いなあ、と顔をしかめて呟くと、ええ?もう?と驚かれた。
言いたいだろうことは分かるような気がする。ついこの間までは暑かった、ようやっと秋らしくなってきた時分だ。寒いと言うよりは涼しいと言った方が適切なのだろう。
まだそんな言うほど寒くない、最高気温だって20度超えているじゃあないかと言われればその通りだ。だが10度から20度になるのと30度から20度になるのとでは大違いなのだ。
「冬になったらもっと寒いよ、どうするの」
「冬眠する」
気温が下がっていくにつれて、思考が鈍く緩くなってゆくのが分かる。これは冬眠の準備をしているのだ。きっとそうだ。
本当に眠り続けることはない。だが、すべての気力が消え失せてただぼうっと春を待つその様を、冬眠と呼ばずして何と呼ぶのだろう。
いっそ本当に眠り続けることができればいいのに。何度憧れたことだろうか。春までのまどろみ。どうせ、起きてても中身は空っぽなのだから。
寒いなあ、ともう一度呟いた。一緒にいれば暖かいよ、とまるで見当違いの言葉が聞こえた。
その他小説/
小説トップ