BEFORE


 なんとも中途半端な明るさの、ぼんやりとした淡い闇が、時折揺らめく空間に、二人の人が漂っています。一人は腰掛けるようにして、もう一人は寝転がるようにして。
 二人は、まるで鏡に映したように、全く同じ姿形をしていました。二人は双子の兄弟なのです。どこかに腰掛けている方が兄、どこかに寝転がっている方が弟。
 何をするでもなく、ただ漂っているこの双子の兄弟の他には、ここには誰もいなくて、何もありません。ただ、薄墨のような淡い闇が、時折揺らめくばかりです。
「ずいぶん暇そうにしていますね」
 ふと、兄が言いました。その声に、弟が兄を見上げると、兄は弟を見下ろして、微笑んでいました。
「ああ、暇だ」
 弟は溜め息混じりに言いました。
「暇で退屈で暇で退屈で仕方がない。どうしてここはこんなにも退屈なんだ?」
 すると兄はこう答えました。
「それは、あなたがそう望んでいたからでしょう?あなたが、何もない静かな場所でずっとぼんやりしていたいと言ったのではありませんか」
「そうだったっけ?……でも」
 弟は寝転がった姿勢のまま、くるりと纏った衣の下で、腕と足を組み直して言いました。
「もう、ぼんやりしていることには飽きた。なんとかしてくれ」
「おやおや」
 すると、兄はくすくす笑いました。
「もうあなたはここに飽きてしまったのですか?困ったものですね」
 弟はつんとそっぽを向いてしまいました。そして兄は、微笑んだままふわりと弟に近付くと、彼をなだめるように言いました。
「分かりました。それでは、わたしがあなたのために、面白いものを見せてあげることにしましょう」
「面白いもの?」
 弟がちらりと兄を見ました。兄はうなずくと、すうっと弟から離れていきます。
「おい、どこへ行くんだ?」
 弟は慌てて起き上がりました。
「おれをここに置いていくのか?」
 急に淡い闇の中へと紛れてゆこうとする兄に向かって、焦りと不安を隠し切れない声音で弟が問い掛けました。兄はそんな弟が可愛くて仕方ないというように、愛しそうに弟を見て言いました。
「大丈夫、心配することはありません。しばらくここで待っていなさい、わたしはすぐに帰ってきますから」
 ゆうらりと、淡い闇が揺らめいて、そして、姿は消えました。



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