ぬくもり


「うわ!」
 その部屋に入った瞬間、僕は思わず声を上げた。
「なにこの寒い部屋!」
 助けて、などと突然連絡がきたもんだから慌てて駆け付けてきてみれば。
「冷房つけすぎ!」
「おー」
 部屋の主は隅の方に転がっていた。ごろりと寝返りをうって僕を見る。
「たすけてー」
「たすけてー、じゃないよ!なにやってんの、こんなに冷房低くして!体に悪いよ!地球環境にも悪いよ!リモコンどこ!?」
「あはー。そこでとっさに地球環境の話になるあたり、お前やっぱさすがだなあ」
「ああもう!」
 呑気なことを言う彼にイラッとしながら、テーブルの上の色々の中からエアコンのリモコンを探し出した。やっぱりエアコンはありえない温度に設定されている。急いで設定温度を上げ、やっぱりと思い直して、切った。
 窓を開けた。ふわっと外の空気が入ってくる。
「あーあったけえ……」
「いや真夏にそのセリフって普通ありえないから」
 彼はごろごろと僕の方に転がってきた。
「まあ座んなよ」
「寝転がったまま言うセリフ?」
 じわりと部屋の温度も上がってきた。僕は一つ溜め息をついて腰をおろした。
 すると。
「……ちょっとなに」
 むくりと起き上がった彼が、ぎゅっと僕にしがみついてきた。
「あー、あったけえなあ」
 僕はもう一つ溜め息をついた。
「なにやってんの」
「やっぱいいなー、人の体温って」
「なに言ってんの」
「たまにはこういうのもいいよな」
「……」
 突然、僕は泣きたくなった。
「よくないよ」
 なにやってんだよ。真夏だってのに、こんなに冷えきってしまうまで、寒くした部屋で、ひとりきりで。
「なんで?」
「……だって、地球にだってやさしくないし」
 ああでもよかった。こうして僕を呼んでくれて。ひとりで凍えてしまう前に、誰かに助けを求めてくれて。
 誰かに助けを求めてもいいんだってことを、彼が覚えていてくれて。
「お前ってさあ」
 彼が笑うのが背中に直接伝わってきた。
「やっぱさすがだよなあ」
 背中から、じんわりとあつくなってきた。



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