迫り来る


 寒かった。
 どうしてだろう、外では太陽が眩しい光を熱く叩き付けているというのに。
 部屋の片隅で横になって、俺は壁を見ていた。
 冷たい風が吹き付けてくる。どうしてだろう、外ではセミがやかましく鳴いているというのに。
 壁がもじゃもじゃと動き始めたように見えた気がして、俺は目を閉じた。
 自分で自分を抱き締めるように、肩に手を回してみる。けれども腕は冷たくて、やっぱり寒かった。
 なんにもないもんな、と思った。
 部屋の中にも、俺の中にも、今の俺にも、これからの俺にも。
 ああ、もう。
 肩から手を離して、ごろりと大の字になった。冷たい風が吹き付けて来る。俺をどんどん冷やしてゆく。
 けれどももう、どうでもよかった。冷やしたければ冷やせばよかった、俺なんか。
 首だけを動かして、窓を見た。眩しかった。
 俺はそれを見つめ続けた。目なんか痛くてもよかった。
 どうでもよかった。俺なんか。
 しぬかもしれないなあ、と思った。
 別にそれでもいいかな、が、迫って来ていた。もうしんじゃってもいいかな、が、迫って来ていた。
(……ああ、嫌だ)
 俺は窓に背を向けて、再び、ぎゅっと小さくなった。
(たすけて、だれか、だれか、だれか)
 そんなものに飲み込まれてしまいたくはなかった。
(俺はまだ死にたくないんだ)
 自分に言い聞かせるように強く思うと、熱いものがあふれて、すぐに冷えていった。

「……たすけて。俺もうだめかも」



その他小説/小説トップ
- ナノ -