文字データ
『助けて。胸が張り裂けそうだ』
携帯の小さな画面に映る文字は決まり切った形をしていて、僕の気持ちなど何一つ伝えてはくれなさそうだった。
だから僕はいつもメール送信ボタンではなく電源ボタンを押す。画面はぶつりと真っ黒になるけれども、最近の携帯は、メールの作成途中に電源ボタンを押してしまっても、勝手にメールを保存してくれる。
そのため、僕の携帯には、そんな文字データが馬鹿みたいにたくさん詰まっていた。
助けて。胸が張り裂けそうだ。
しゃらりとカーテンを開くと、外は紺色に静まり返っていた。
口を開いた。
「……」
それから閉じて、溜め息を吐いた。
叫ぶことすらできないなんて、なんて不自由なんだろうと思った。
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