幸あれ
手紙が届いていた。
結婚式の招待状だった。
高校の時の親友が、当時から付き合っていた彼氏と結婚する。
いずれはそうなるだろうと思っていた。付き合い始めた高校の時から二人はラブラブだったし、卒業してからも、二人に会う機会は何度もあったけれども、その度にやっぱりラブラブな様子だったし。
よかったね、と素直に思った。きっとずっと二人はラブラブだろうと思ったし、そうであってほしいと思った。
そして久し振りに思い出した。二人が付き合い始めた頃のことを。
彼女が彼と付き合い始めたらしい。と、最初は本人からではなく、噂で聞いた。
「で?どうなのよー?」
私は早速彼女を問い詰めた。
教室の前の方の、校庭に面した窓際で、並んで窓枠に寄り掛かって。
「えー」
彼女は困ったように笑っていた。
「みんな言ってるよー。白状しなさいよー」
確かに彼女と彼は仲間内でもいちばん仲が良さそうだった。そうなってもおかしくない、感じが、した。
彼女は困った様子のまま、
「あんまり広めたくなかったんだけどなあ」
「やっぱりそうなんだ」
「うん」
微笑んでうなずいた。
その瞬間、自分でも驚くほど、どきっとした。
驚くほど、痛かった。
あれ?
「うわー、そうなんだー。なにいつから? いつの間に?」
とか言いながら、自分でも何を言っているのかよく分からなくなってきた。
あれ?なんだろう?なんでだろう?
すると、
「……ごめんね」
突然、彼女に謝られた。
「え?なにが?」
私はどうして謝られるのか分からなかった。心当たりなんかなかった、全く。
すると彼女は言った。
「だって」
彼のこと、好きだったんでしょう?
「え?」
なんでも、私はあからさまに傷付いた顔をしたそうだ。気付かなかった、彼女にそう言われるまで。
そう、だった?
私が、彼を?
……ああ、きっと、そうだったんだろう。なんだか、分かったような、気がした。
「いや、でも、そんな、謝ることじゃ、ないじゃん」
そしてやっぱり、何を言っているのか分からない、感じがした。彼女はそんな私を、やっぱり困った様子で、見ていた。
そして今。
あれから何年も経った今。こうやってあの頃のことを思い返してみれば。
そうじゃなかった、ことが、分かる。
あの時私は確かに悲しかった、寂しかった、悔しかった。そしてそれは、自分でも気付かないうちに彼のことが好きだったから、だと思っていた。
けれども違った。そうじゃなかった。
あの頃私が好きだったのは、彼じゃなかった。あの頃私が本当に好きだったのは。
彼女だったのだ。
彼を彼女にとられて傷付いたんじゃない、彼女を彼にとられて、寂しかったんだ。
彼女との毎日は、楽しくて楽しくて、ずっとこんな日々が続けばいいと思っていた。ずっと、彼女と一緒にいたいと思っていた。
今なら分かる。あの時のあの痛みの、本当の理由が。
(そしてそれは)
(もしかしたら、今でも)
けれども、だからどうこうという気持ちはもちろんない。
ただ、せめて、幸せになってほしかった。
ただただ、彼女には、ずっと、幸せであってほしかった。
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